児童書の森を歩きながら05

子どもにとっての偉人伝
「図書館の学校」TRC

後藤 わか子(世田谷区立中央図書館 新刊を読む会)

           
         
         
         
         
         
         
         
     
『わたしの仕事 最新集3 食べ物を作る人、売る人』 今井美沙子著/今井祝雄写真
 先日、ある勉強会で「伝記」をとりあげた。その時、ちょっと前までは、子どもの「将来○○になりたい」という願望を具体的にイメージさせるものが「偉人伝」であったが、最近はちがう、という話が出た。
 たとえば、「看護婦になりたい」ということだったら、以前はナイチンゲールの伝記に感動して…だったのが、今はマンガやテレビドラマの主人公に影響を受けて…、だったりする。そう言われて改めて考えてみると、図書館で伝記はほとんど読まれていないことに気がついた。職業紹介に重点を置いた「○○になる本」みたいなものは、子ども向けの本でも割合借りられているようなのだが。
 これも時代の流れで、特別な人のことを書いたものより、身近な人の生きざまの方が説得力があるということだろうか。
 今回取りあげた『食べ物を作る人、売る人』では、農業・八百屋・バー経営等十八の職種が取り上げられている。著者のインタビューで各人の肉声が引き出されていて、「仕事をする」ということが、生活をするためのお金を稼ぐ、ということだけではなく、その人の「生き方」に深く結びついているのが感じられる本づくりとなっている。仕事の性質上、自営でやっている人ばかりで、「親のあとを継いだ」という人も多く、仕事を軸にした家族とのかかわりについても、触れられている。
 その仕事につくためのノウハウを具体的に書いている「なる本」的なものとはちがって、「自分にとって仕事とは何か」ということを改めて考えさせられる。  ただ、著者が大阪在住の方であるためか、登場人物がほとんど大阪人で、仕事はどこでやっても同じだから問題はないのだが、もっといろいろな地域の人がいてもいいんじゃないかという気にはなった。
 さて、子どもにとっての「偉人伝」は?という問いは、まだ心に残ったままである。
※この『食べ物を作る人、売る人』が入っている、「わたしの仕事最新集」というシリーズは、一九九一年初版の「わたしの仕事全一冊」(百科事典のように分厚い本である)とその分冊全十巻の改定新版と思われる。この『食べ物を…』が、『毎日の生活を考える人』『未来への視点で働く人』に続く三巻目で、このあと『生きる勇気をあたえてくれる人』『楽しさやおもしろさを作る人』が出て、五巻完結となる。