194

       

以下、三辺律子です。

読売NAVI&navi テーマ「雪」
 体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ
 手はつながずにみるはるのゆきのなか今日で最後のアシカの芸を
(『シンジケート』穂村弘:著、沖積舎)
 美しく冷たく純粋ではかない雪は、古今東西で文学の題材になってきた。現代の恋人達を詠んだこの短歌も、和歌の時代、いやもっと前から育まれてきた雪のイメージがあるからこそ、情景や想いがすんなりと入ってくる。短歌というと、古臭いとかわからなそうと敬遠する人もいるけれど、そんな間違った常識を覆すこの歌集の魅力は、あれこれ解説するより、歌自体を読んでもらうのが一番だと思う。
 死のうかなと思いながらシーボルトの結婚式の写真みている
 シャボン玉鼻でこわして俺以外みんな馬鹿だと思う水曜
 一方、リリカルな言葉で現代の若者を描きカルト的人気を誇る作家リア・ブロックも、雪のイメージをよく使う。昔話を現代風に再話した短編集『薔薇と野獣』(金原瑞人・小川美紀訳、東京創元社)の「白雪姫」では、「信じられないほど白く」美しい雪(スノウ)が、七人の小人の娘・妹・母親役から「大人の女」になるにつれ、周りも自分も戸惑い、心揺れるさまが描かれる。
 ヘロインの針を腕に刺す「眠り姫」。継父に襲われる「赤ずきん」。有名プロデューサーの「青ひげ」に殺されかける少女。ともすれば生々しく卑近になりかねないストーリーが、ヒリヒリと切実に響くのは、ブロックの詩的文体の力だ。
 意味や解釈よりまずイメージに浸る楽しさを知ると、読書はますますやめられなくなる。
(読売新聞 2014年2月8日掲載)

追記:
 むかしから、国語の長文読解の「この傍線部の意味を述べなさい」とか「このときの主人公の気持ちを20字以内で書きなさい」のような問題が苦手だった。はっきり言って、ぜんぜんわからなかった(ので、授業中先生が言ったことを、納得しようがしまいが丸写しした)。
 だから、自分は本を読むのは大好きだけど、「文学鑑賞」は苦手だと思っていた。
 今から考えると、「意味を述べ」たり、主人公の気持ちを「20字以内」で書いたりできるはずがない。そんなことができるなら、そもそも作家がわざわざ苦労して長い作品を書く必要はない。レオ・レオニが『スイミー』を描いたのは、力を合わせることの大切さを説くためだけではなく、やっぱりスイミーが目になるところを描きたかったんだと思うし、『うさぎとかめ』とか『北風と太陽』のような意味を探ることが重要なジャンルである「寓話」だって、努力の大切さや温かい愛情の力を教えたりするだけでなく、生き物の特徴を巧みに利用したストーリーや、マントを脱がせるときの発想の転換などを楽しみたくて、書いたり、読んだりするんだと思う。綿矢りさだって、どうしてハツがにな川の背中を蹴りたいか「20字以内」で説明できないから、わざわざ長い小説を書いたのだ(たぶん)。
 まあ、ともかく、学校時代に話をもどすと、意味を探ったり解釈するのが正しい文学の鑑賞法だと思っていたわたしにとって、特に和歌は謎だった。毎回、教科書の解釈を見て初めて、「そんな意味だったのか!」と驚く。当たったためしがない。そもそも、作者の人生とかそのときの恋人とかそこまで細かい背景を知らないと、「意味」がわからない歌も多い。だから至極苦手だと思ってきたのだけれど、一方で百人一首などを覚えるのは大好きで、校内百人一首大会は二位だった(自慢。ってよりオタクか)。なぜなら、音とか言葉の響きとかリズムとか雰囲気が好きだったのだ。
 そのような学生時代から長いときを経て、再会したのが短歌だ。穂村弘さんと東直子さんの『回転ドアは、順番に』(ちくま文庫)に完全に陥落してしまったのだ。「解釈」なんてわからない歌もいっぱいあったけど、音やリズムや言葉のつむぐイメージやほかのなんだかわからないものにひたすら浸りきった。この本を楽しめた=鑑賞したという確かな感触があった。
 というわけで、思いが募り(!?)、東直子先生に弟子入りしてしまった。先生の講義をきくにつれ、「なんだかわからないもの」の大切さを実感している。今回の書評でとりあげた穂村弘さんの『シンジケート』や『回転ドアは、順番に』はもちろん、今、歌集はすばらしいものがどんどん出ているので、ぜひ手にとってみてほしい。                     三辺 律子(翻訳家)

以下、ひこ・田中です。
【児童書】
『なんでそんなことするの?』(松田青子:作 ひろせべに:画 福音館書店)
 トキオは学校でいじめられているのですが、ミケには平気な振りをしています。そこでミケはトキオについて学校に出かけます。そうしてトキオがいじめられたり、嫌な思いをする現場を観るのですが、そこでミケは懲らしめるために、食べてしまったり、その子の机の上だけ雨を降らしたりと仕返しをするのです。トキオは、「なんでそんなことするの?」とミケに問いかけるのですが、ミケはトキオをいじめる子たちに容赦しません。
 困ったトキオはどうするか?
 ミケの容赦のなさが、いじめの本質を突いてきます。
 ありそうでなかった不思議な物語展開。ひろせべにの画も独特の世界ですよ。

『伝説のエンドーくん』(まはら三桃 小学館)
 緑山中学を舞台に、校舎のそこここにある「エンドーくん」を冠した言葉の数々。エンドーくんとは何か?
 ある章を除いて、各章の視点は緑山中学の教師で描かれています。彼らが何を悩み、行き詰まり、「エンドーくん」によって一歩前に進んでいくか。
 教師という立場を生きている彼らを描くことで、違和感のある場として通っているかもしれない中学校が別の角度から照射され、中学生読者へと大事な想いを届けていきます。ます。
エンドーくんによって生徒と教師の距離を測っていく展開は見事です。
 まはらさんの代表作になると思います。

『ふたりは世界一』(アンドレス・バルバ:作 宇野和美:訳 おくやまゆか:絵 偕成社)
 スペインのユーモア児童小説。小さな男子フワニートと大きな女子ベロニカ。ふたりは世界記録を作るのが趣味。
 ある男が呪いを掛けられ、世界記録を作らずには居られなくなっています。フワニートとベロニカに与えられた任務は彼の世界記録を破ってしまうこと。そうすればのろいが解けるのです。
こうして二人は数々の世界新記録を打ち立てるために他界を巡るのですが、記録更新するたびに、つぎつぎと男に破られてしまいます。
どうすればのろいが解けるのか?!
あほくさい世界記録が次々出てきて、大いに楽しめますよ。
そして、オチもなかなか良いです。

『ふしぎなトラのトランク』(風木一人:作 斎藤雨梟:絵 すずき出版)
 ある日、トランクを持って、人間のような格好をしたトラが町にやってくる。とうぜん怖がります。
 トラは、図書館や公園やレストランやお風呂屋さんにやってきて、紳士的に振る舞い去るときにトランクの中に何かを入れているような。
 「トラ」の入ったコトバガいっぱいの、不思議な発想で、最後は不思議に心温まる春先のような物語。
 斎藤の描く、トラの佇まいもなかなか良いです。

『あひるの手紙』(朽木 祥:作 ささめやゆき:絵 佼正出版社)
 小学校一年生のクラス担任に、ひらがなの手紙が届く。文面は「あひる」。
新入生? ではないみたい。
 実は二十四歳で字を習い始めた人からのものでした。
 クラスのみんなは、彼に返事を書くことに。でも、「あひる」って?
 どんな手紙の交流が始まるのか?
 言葉がつなぐ心。

『星空ロック』(那須田淳 あすなろ書房)
 一四歳レオは、友達になった九十歳の男からあることを託される。それは男が戦前ベルリンに留学中に残したままの思いを遂げること。
 彼の死後、家族の事情で独りベルリンに行くことになったレオは、彼との約束を果たそうとする。
 物書きが一番嫉妬する、他の表現方法は間違いなく音楽なのですが、今作で那須田は音楽を使いながら、日本の若い読者にドイツを巡る様々な情報を伝えていきます。もちろんその情報が日本を巡るそれでもあることも気づいて欲しいと願いつつ。
 タイトルは、少しやり過ぎですが(笑)。

『那須正幹童話集』(全五巻 ポプラ社)
 挿画は、垂石眞子(1)、長谷川義史(2)、はたこうしろう(3)、むらいかよ(4)、武田美穂(5)という豪華ラインナップ。年代順ではなく、テーマで括られています。五巻目「ねんどの神さま」収録など、なかなかうれしいです。それぞれのあとがきも那須さんの考え方がまっすぐに示されています。

【絵本】
『かぞくのヒミツ』(イソール:作 宇野和美:訳 エイアールティー)
 「わたし」が朝早く起きてママを見ると、髪の毛がヤマアラシ! 「わたし」はショックを受ける。昼間のママの髪の毛はふんわり。これはきっと嘘で、ママは本当はヤマアラシなんだ。そこで「わたし」は友達の家にお泊まりに。ここならきっと安心。ところが、「わたし」が朝早く起きると、友達のママの髪の毛はクマ。パパもヘン!
 という風にして「わたし」は見かけと本質の違いを知っていくのでした。
 まず、まず、イソールのすばらしく勢いのある画をぜひ見て。
 もっと読みたい作家です。

『きせきのお花畑』(藤原幸一 アリス館)
 砂漠地帯に年に一度だけ生まれる広い、広い花畑を私たちに届けてくれる写真絵本です。
 藤原さんが、はまっちゃってるのが、気持ちよくわかる出来です。
 広角で、その広大さに圧倒され、ズームでその可憐さや力強さが染みます。
 地球って視点で考えられる一冊です。

『ボタ山であそんだころ』(石川えりこ 福音館書店)
 炭鉱町に住む子どもの日々。落盤事故。
祖父母(私の世代)の時代までの記憶ですが、それが今こうして活き活きと描かれる大切さを思います。
書店に出かけて、カラフルな絵本の中に一冊、モノクロのこの作品が置かれている所を是非見て下さい。
今の子どもにはわからないところ、わかるところ、色々詰まっています。

『いしをつんだおとこ』(あきやまただし ハッピーオウル社)
 貧しい男が、寒い朝、空き地に石を積み始めます。それで囲んで寒さをしのごうと言うのです。
 警官が止めさせようとしますがその土地の持ち主が許可します。
男は石を積み続けますが崩れてしまう。
それで男は本で学び、今度は崩れないように積んでいく、積んでいく。
やがてそれは寒さしのぎのためのものであることを越え、生まれた息子と共に、高い高い塔を作っていくことに。
 画風は、これまでのあきやまとは全く違っていますが、これも今後は欲しいです。

『おおかみだあ!』(セドロック・ラマディエ:ぶん ヴァンサン・ブルジョ:え たにかわ しゅんたよう:やく ポプラ社)
 おおかみがやってきた。ページを繰ると近づいてくる。どうする? ページを傾けておおかみをずりおとすんだ! まだだめか?
 って、アクション絵本であります。この絵本を両手で持ってスリルを楽しんで下さい。ポップアップのない、読者が起こす仕掛け絵本。
 個人的には、考えていた企画がこれでボツだ・・。

『だいすき、でも、ひみつ』(二宮由紀子:文 村上康成:絵 文研出版)
 右足のおやゆびが、こゆびを好きになります。その思いを伝えたいのですが、遠いし、彼女の気持ちがわからないし。
 こゆびから交際OKの知らせが。でもこゆびは今までおやゆびを見たことがないし、この恋の結末は?
 二宮流、遠距離恋愛物語。

『ごたっ子の田んぼ』(西山豊 アリス館)
 八ヶ岳の麓の小学校。五年生の餅米作り。田お越しから収穫、試食までの姿をとらえた写真絵本です。
 真剣にやっていてもやがては遊びに。遊びのつもりが真剣に。そう、そこに区別なんかない。
 みんなで長い時間を掛けて作ること。
 一つ一つのショットが活き活き。

『ほうれんそうはないています』(鎌田実:文 長谷川義史:絵 ポプラ社)
 たべてもらおうと育てたほうれんそう、米。採った魚。みんなみんな人の命になるのに、食べられなくなった原発事故。
 怒りを包み込みながら語る言葉に、長谷川がありのままの絵で応えます。
 鎌田の願いが叶ったコラボレーション。

『熱帯の森の家族』(関野吉晴 ほるぷ出版)
 関野がこれまで関わってきた様々な民族の様々な村の様々な家族。長い時間を掛けて信頼関係を築いてきた彼らの日常を編んだ「地球ものがたり」四冊目。今回はアマゾンの先住民マチゲンガの四十年間の暮らしを伝えてくれます。
 モノクロからカラーまで、時代時代の写真は、彼らの変わらない生活と、変わってしまった生活を知らせています。
 私たちとは違う文化や風習も含め、受け取って下さい。

『おやすみおやすみ』(シャーロット・ゾロトウ:文 ウラジミール・ボブリ:絵 ふしみみさお:訳 岩波書店)
 タイトル通り、色んな生き物のお眠りを描いています。クマ、さかな、が、うま。眠り方は様々。その様々さと、それでも眠りの心地よさ。それが言葉と絵から伝わってきます。
落ち着いた、でも地味ではない色合い。
ウラジミール・ボブリの画は半世紀前の作品ですが、古びてはいません。

『モジャキのくすり』(平田明子:さく 高畠純:え ほるぷ出版)
 子どもが(大人も)喜ぶ設定の中にうまくメッセージを溶け込ませた一品。
 ゴリラのモジャキは、はなくそを食べるのが好き。そこにフクロウがやってきたものだから、はなくそではなく、頭のよくなる薬だと嘘をついてしまいます。信じたフクロウは大事な羽とモジャキのはなくそを交換。噂が広がり、色んな生き物がモジャキの頭がよくなる薬と大事な物の交換を願い始めます。引っ込みのつかなくなったモジャキは悩んで寝込んでしまいます。
 はなくそという、子どもが喜ぶ素材を使って、大切なことを伝える平田の巧さ。
 これが絵本デビュー。
 すばらしい、デビュー!

『ニャーロットのおさんぽ』(パメラ。アレン:作・絵 野口絵美:訳 徳間書店)
 ニャーロットは飼い猫で、猫ドアから出入り自由。さて、きょうもお散歩。あちこち、かわいがってくれている人たちがおいしいものをくれます。もちろん全部いただいちゃいます。
 ページを繰るごとにニャーロットのお腹が少しずつ大きくなっていくのがおかしい。オチは見えるけれど、見えるからこそおかしい。

『あまがえる先生 1ねんずかん』(まつおか たつひで ポプラ社)
 「あまがえる先生シリーズ」最新作。
 今回は四季の動植物のミニ図鑑です。松岡さんの筆の冴えをたのしみつつ、世界は生き物に満ちていることを感じる絵本かな。
 しかし、知らない物が多すぎる私・。

『はのはのはなし』(中西翠:文 山本孝:絵 アリス館)
 こうたが口を開けて鏡で観てみると、あれ? 奥の方の歯に葉っぱが。芽が生えてるぞ。
 そこでこうたは家族にないしょで、葉っぱに栄養を与えるべく、食べ方も工夫して、育って育って、ついに歯ごと口から飛び出して庭に落ちたそれは・・。
 ようこんな話を思いつけるなあ。中西さんってすごい。それを絵にしてしまう山本さんの無茶ぶりもすごい!

『ニワシドリのひみつ』(鈴木まもる:文・絵 岩崎書店)
 鈴木さんといえば鳥なわけですけれど、今作は「ちしきのぽけっと」の一冊です。
ニワシドリとは庭師鳥。巣はメスが作るのですが、オスがメスを誘うために色んな舞台をセッティングするのです。フウチョウのように、そこで踊ったりするわけではなく、「どや!」ですね。
すごくりっぱな巣を作ってみせるのと違って、無駄な作業に思えますが、彼らは天敵のいなかったオーストラリアやニュージーランドに生息しているので、その一生懸命さがメスを引きつける術なんでしょうね。

『かきたいなかきたいな』(井上コトリ アリス館)
 文房具たちの世界。主人公は赤えんぴつのあかいろちゃん。色んな文具の森を通り抜けながら、描けるところにどんどん描いていきます。
たどり着いた画用紙の広場! あんまり広くてうれしくて、描く描く。でも、あかいろちゃんが、どんどん短くなってしまうよ! それでも描いていくのだ。

『しろおうさまとくろおうさま』(こすぎさなえ:さく たちもとみちこ:え PHP出版)
 白が大好きなしろおうさまと、黒が大好きなくろおうさま。二人は灰色の境界を作って右と左の世界に住んでいます。そこに現れた七色の小人たち。
 灰色の境界からどんどん色を染めていきます。
 絵本ならではの、変化のおもしさ。

『おじいちゃんとのやくそく』(石津ちひろ:文 松成真理子:絵 光村教育図書)
 亡くなったおじいちゃんが愛した木を、のぞみはおじいちゃんの木と思っていつでも話しかけます。
楽しいこと悲しいこと、その日あったこと。
そうすると、おじいちゃんが教えてくれてことや、話してくれたことが思い出され、のぞみは一歩前へ進んでいけるのです。

『くま!くま!くまだらけ』(ルース・クラウス:作 モーリス・センダック:絵 石津ちひろ:訳 徳間書店)
 男の子があんまり、くまのぬいぐるみばかりをかわいがるものだから、犬はぬいぐるみのくまさんをくわえて逃走! 取り戻そうと追いかける男の子。という、活劇。
 ところがまわりは大きなぬいぐるみのくまだらけで、それもどんどん増えていき、収拾が付かなくなります。その辺りのおかしさが見せ所。
 ついに男の子は、ぬいぐるみのくまを取り戻しますが・・。

『あみだだだ』(谷川俊太郎:ぶん 元永定正:え 中辻悦子:構成 福音館書店)
 元永の遺された「あみだだだ」の原画と文。その文と絵から谷川が言葉をイメージし、中辻が構成して絵本となりました。
 元永の絵画作品にもあみだ風の画がいくつもありますが、どちらかというとそれらは現代美術として受容されます。一方これはまさに絵本となっています。
 あみだの先には別に関連性も意味もありません。だから自分で自由にイメージして楽しんで下さい。
 うん。楽しい。

『とりがないてるよ』(ヨアル・ティーベリ:ぶん アンナ・ベングトソン:え オスターグレン晴子:やく 福音館)
 様々な鳥と、その様々な鳴き声を描いていきます。
 日本にいない鳥もいますが、見開くごとに次から次へと現れる鳥たちに、森や木立の風景が思い浮かんで、楽しい気分となれますよ。鳥嫌いはだめですけど。

『にわのかいじゅうファイル』(松橋利光 アリス館)
 庭によくいるは虫類から昆虫までを、かいじゅうに見立てて、番号を付け、ベストショットにデータを加えてファイリング。そうすることで、ダイナミックにわかりやすく特徴をつかめます。
 ただ、せっかくだったら、索引検索を出来るようにしておいて欲しかった。子どもたちはまだそれを使わないかもしれませんが、「索引」ってものがあることをこの機会に知っておくのは大切です。

『おたすけや たこおばさん』(高林麻里 偕成社)
 人間の仲間入りをしたいと思ったたこおばさんは海から上がって何でも屋を開きますが、今ひとつ。そこへやっと依頼が。友達が欲しい女の子。さてさて、たこおばさんはどうする?
 たこおばさんって発想が、まずすごい。たくさんの手(足?)で、色々お助けしてください。

『ねむいんだもん』(福田幸広:しゃしん ゆうきえつこ:ぶん そうえん社)
 『ウマがうんこした』の福田による、可愛過ぎる、お眠り中の動物たち。気持ちよさそうです。
 気持ちよさそうな彼らの姿を眺めながら、コクリ。ようやく、春ですね。

『ギンジとユキの1340日』(渡辺有一 文研出版)
 四年前、東北の川を海へと下っていったサケが、困難を乗り越えて戻ってくるまでの物語を、渡辺が描き語ります。

『貨物船のはなし』(柳原良平:作 「たくさんのふしぎ」四月号 福音館書店)
 柳原さんが大好きな貨物船の数々の歴史を踏まえて描いています。
 シンプルなイラストですから、図説や調べ物絵本ではなく、貨物船への愛情絵本です。そこが見所、読みどころ。
 単行本にして欲しい一冊です。

『カレーライスとまねきねこ』(苅田澄子:ぶん 飯野まき:え 「こどものとも」四月号 福音館書店)
 ゆうがた、みきちゃんはお腹がへってお母さんの所に行くと頭が痛くて寝込んでいます。そこでみきちゃんは自分がカレーライスを作ろうとはりきるのですが、じゃがいも、にんじん、たまねぎがない! そこで招き猫さんの出番。色んな動物を材料持参で招きます。
完成!
親が病気の不安を、優しく包みます。

『育てて、発見!「トマト」』(真木文絵:文 石黒ヒロユキ:写真・絵 福音館書店)
 トマトの歴史と育て方を、写真も豊富に解説しています。
 トマト(ナス科)は強い野菜で、比較的簡単に育成できますから、これを参考にお試しあれ。わき芽はこまめに摘み取らないと収集が付かなくなりますから気をつけてくださいね。
 装幀が、トマトっぽくていいですよ。

『とんねるくん』(こぐれけいすけ WAVE出版)
 とんねるくんとは何者ぞ。トンネルです。
 とんねるくんは、何に接触してもトンネルになってくれます。冷蔵庫や靴下やコップにつながって、何が出てくるでしょう。

『みんなそれぞれ心の時間』(一川誠:文 吉野希男:絵 「たくさんのふしぎ」五月号 福音館書店)
 昔、森毅さんに、なぜ歳を取ると一年が早く過ぎるのかを訊いたら、十歳の子にとっての一年は人生に十分の一だけど、六十歳になると六十分の一だからという返事で、なるほどと思ったことがあります。
 この絵本は、人の感覚によって感じる時間の違いについて色々教えてくれます。それぞれの人のそれぞれの時間を受け入れて、一緒に生きること。それは国や政治や、企業とはかかわりのない時間。

『あずき』(荒井真紀:さく 「かがくのとも」五月号 福音館書店)
 あずきを、発芽から、観察し、収穫を確認し、おだんごや羊羹や桜餅まで、その生涯をひっくるめて描いています。そこがいいな。
 家にあるあずきを発芽させたい子どもが急増するかもしれませんね。
 冊子「かがくのとものとも」に荒井さんは、他のお豆もたくさん描いて下さっていますよ。

『ラスコーの洞窟』(エミリー・アーノルド・マッカリー:絵と文 青山南:訳 小峰書店)
 『つなのうえのミレット』で、その絵力を存分に見せてくれたマッカリーが、ラスコーの洞窟の発見から保存までの道のりを描いています。
 そうか。少年たち、発見したときはこれで見物客からお金を取ってやろうと考えていたのかとか、それが、第二次世界大戦でフランスがドイツに占領されていたときだとか、彼らがその後どういう生涯を送ったかなども押さえてあるから、物語のような活き活き度です。

『おふろでストロー』(おーなり由子:さく 「ちいさなかがくのとも」五月号 福音館書店)
 コップにストローでブクブク。でも小さすぎて溢れてしまう。じゃあ、湯船でストローを使いましょう。
今度は洗面器にシャンプーを入れてブクブク。
と、ストロー遊びが拡がって行きます。
この一連の流れが気持ちいいのです。

『ヒートアイランドの虫たち』(藤原幸一:写真・文 あかね書房)
 都会で生きぬいている昆虫たちを追った写真絵本です。暖かいので大きくなる前に成虫になってしまって小さいカブトムシだとか、ただでさえ暖かいので、外来種が日本の固有種を追いやる現実や、都会の道具で巣を作る虫などが語られています。

『たがやせ! どじょうおじさん』(チャンキー松本 あかね書房)
 どじょうおじさんが田んぼに戻ってきたら、耕されてもいない! ってことで、どじょうおじさんと少年ががんばって田んぼをよみがえらせ、稲穂を実らせるまでのお話が、濃く熱く描かれています。鍬は土を混ぜるものじゃなく掘り起こすものですが(笑)。
 チャンキー松本、初絵本だったんだ。

『がったいガッチーン!』(新井洋行 ほるぷ出版)
 「ぽーん」「どぼーん」「すとーん」と来た擬音絵本の四作目です。今回は、家の中にある色んな道具が合体いたします。どれがどう合体して、何になるかはお楽しみ!
 画も毎回変えてあって楽しめます。

【その他】
『ハタチまでに知っておきたい性のこと』(橋本紀子・田代美江子・関口久志:編 大月書店)
 まえがきにあるように、Sex EducationからSexuality Educationへというスタンスで書かれています。当たり前のことですが、それが全くといいほどなされていないのが、この国です。学校教育のみならず、社会全体で。
 この本が「ハタチまでに」をタイトルにしているのは、大人になるまでに、こうした知識は持っていて欲しい。持って大人になって欲しいという願いが込められているのだと思います。
 読んで下さい。
 と同時に、ハタチ過ぎの人もぜひ。自分たちが持っている知識や、感覚や、価値観が問い返されていくでしょう。

『「死」の百科事典』(デボラ・ノイス:著 千葉茂樹:訳 あすなろ書房)
死を巡っての対処・行動から思考までを、宗教、科学、人文学、カテゴリーを横断した百科事典。「死」を考えるための様々な道筋が示されています。
難しい話はないので、「死」から目を背けず向かい合ってみる最初の一歩の書。

『今こそ読みたい児童文学100』(赤木かん子 ちくまプリマー新書)
 大人にも割とよくタイトルは知られている児童文学から赤木が100選。従って、選書自体はスタンダードに近いですが、紹介が赤木テイストに満ちています。大人のための導き書。

『ニュース年鑑2014』(ポプラ社)
 今年も来ました、ポプラ社にニュース年鑑。「アベノミクスと消費税増税」や「『はだしのゲン』閉架」問題なども、きちんと押さえています。

『日本地理データ年鑑2014』(松田博康:監修 小峰書店)
 ポプラ社の『ニュース年鑑2014』と併せて使って下さい。日本の作物から資源、領土問題も触れています。
 巻末にある各県収穫量自慢ベスト5もおもしろい。色々おもしろがって、基礎知識をどうぞ。

『江戸川乱歩の「少年探偵団」大研究』(上下巻 ポプラ社)
 研究書ではありません。「少年探偵団」ファンのための資料集。上巻はポプラ社から出ている二十六巻の内容と、エピソード、資料。下巻は、それ以外の作品や解題が納められています。特に下巻は、小学館の学年誌や「家の光」に掲載された作品なども収録されており、おもしろいです。

『絵本作家のアトリエ3』(福音館書店)
 完結編である三冊目が出ました。アトリエは、当たり前ですが作家によって様々。持たない人もいます。要するにそこは思考の場である作業の場であり、時に休息の場でありますから、それぞれが快適な場であればいいわけです。
 みんな個性満載で面白いですが、三巻では特に、甲斐信枝の視座が心に残りました。