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以下、三辺律子

読売NAVI&navi テーマ「風」

 風の神は世界各地で信仰され、破壊と再生の象徴とされることが多い。今回は風神のごとく、一見穏やかな世界に新しい風を吹きこむ少年少女の物語を。
『ぼくの見つけた絶対値』(キャスリン・アースキン・著、代田亜香子・訳、作品社)の主人公マイクは母親を事故で失い、天才的数学者だが日常生活能力に著しく欠ける父親と、ぎくしゃくした日々を送っている。その父親が長期出張に出かけ、マイクは夏を大叔父夫婦の暮らす田舎町ですごすことになる。
皆が仲良く、のどかに見える町にも、問題が渦巻いていた。マイクの大叔父は、息子を亡くして生ける屍と化していたし、その友人のパストはホームレスだし、ルーマニアから養子を受け入れようという町ぐるみの計画も頓挫しつつある。孤児だというその少年になぜか強い共感を覚えたマイクは、応援サイトを開いたり、町の名産品をネット販売したり、計画実現のため奔走する。しかし、その新しい「風」は町の表面的な平和を吹き破り、町中を大嵐に巻きこむのだ。
『さよなら妖精』(米澤穂信・著、創元推理文庫)で「風」の役割を果たすのは、ユーゴスラヴィアからきた少女マーヤだ。平凡な地方都市で暮らす高校生の守屋は、マーヤと出会うことで、自分や友人がいる平穏だが狭い「円」から出たいと願うようになる。物語の始まりが一九九一年に設定されていることが、その後の展開の鍵となる。
風は破壊をもたらすが、破壊のないところに再生はない。たまには、マイクのように風になって吹き荒れるか、守屋のように外からの風をまともに受けてみるのも、いいかもしれない。
  (読売新聞 2012年11月24日掲載)

追記:
 ―――とエラそうに書いているが、わたし自身、おそろしく狭い「円」の中で暮らしてきた。住む場所も、同じ町の三丁目から四丁目に引っ越したことがあるきりで、学校もずっと同じだった。
 だから、大学生になって、ボストンで初めて二ヶ月の寮生活をしたときは、それこそ「風」をまともに受けまくった。
 寮にいたのは、ヨーロッパ人:南米人:アジア人が3:2:1くらい。世界の国々をステレオタイプに理解するのはまちがいだ―――が、みんな、思いっきりステレオタイプだった。
 イタリア人のアレッサンドロは毎朝、ダイニングルームで会うとかならず、「りつこ、ユーアー ビューティフル アズ・ア・ローズ!」とものすごーく下手な英語で言ってくれた(アレッサンドロは、英語のクラスは一番下だった)。で、またすぐに、「ルイーザ(わたしのルームメイトのスペイン人の女の子)、ユーアー ビューティフル アズ・ア・ローズ!」。で、「ブレンダ(ブラジルの女の子)、ユーアー ビューティフル アズ・ア・ローズ!」(・・・・・・以下略。寮には女の子がたくさんいた)。まったく同じフレーズなのは、お世辞だとバレてもかまわないのか、それとも英語力がないせいなのか、バラのように美しいなどと言われたことのない日本人(=わたし)には、わからなかった。
 ルイーザたちスペイン人は毎晩(本当に毎晩)、〈スパニッシュ・パーティ〉を開いていた。毎回、美味しいサングリアを作ってくれるのだけれど、フルーツをぜんぜん洗わないのだけは、清潔マニアの日本人(=わたし)はちょっと気になった。
 フランス人のジェロームは、二言目には「アメリカなんて、歴史もなにもない国だ」。じゃあ、どうしてアメリカに留学してんだよ、とは、気弱な日本人(=わたし)は言えなかった。
 でも、ジェロームに限らず、ヨーロッパ人も南米人も、語学学校のアメリカ人の先生に対して、平気でアメリカ批判を口にした。礼儀正しい日本人(=わたし)はいつも冷や冷やしながら聞いていた。とうぜん、ディベートの授業でも、いつも弱腰。そんなわたしと中国人のハオが、一度だけ先生に誉められたことがある。ある日、「りつこ、それよ! もう一回やってみて!!!」。なんのことか、さっぱりわからない。「ほら、さっきの! エンピツを片手でスピンさせるやつ!」きつねにつままれたような気持ちで、エンピツ回しをしてみせたら、「オー、ワンダフル! それができるのは、りつことハオだけ。東洋の神秘だわ!」ぜんぜん嬉しくなかった。
 一方で、みんなで近所の安いピザ屋にいったとき、ベネゼエラ人のロベルトに「このピザ一枚の値段で、ベネゼエラでは一ヶ月食べていける」と言われ、ショックを受けたこともある。新聞で読むのとはちがい、リアルな世界の姿を見たような気がした。
 とまあ、たった二ヶ月だけれど、ずいぶんいろいろな経験をした。「風」にあたるのは、本当にお勧めだし、忙しくて今すぐには無理、という方はぜひ、翻訳文学を。

(いつか見たい 音も立てずに真っ暗なジャングル走る二トンのカバを
                            三辺律子)

以下、ひこ・田中

【児童文学】
『サンドラ、またはエスのバラード』(カンニ・メッレル:著 菱木晃子:訳 新宿書房)
 恋人との間で事件を起こしてしまった十九歳のサンドラは、介護老人ホームでの労働を命じられます。彼女は入所しているユダヤ人の老女ユディスの語る過去に惹きつけられていく。
 ナチス時代の北欧で青春を生きたユディスと現代を生きるサンドラですが、困難な出来事や事実とどう向き合うか、どう受け入れるか、どう闘うか、どう結びつくかという辺りで、しだいに重なっていきます。
 若い時代に宙ぶらりんになってしまったままの気持ちを抱えるユディスは、時としてその時代に戻り記憶の中をさまよいます。一方、今、決着をつけられない気持ちを抱え込んでいるサンドラは、そんな自分の代わりにというように、ユディスの過去を探していくのです。
 簡単に折り合いをつけることなどできない、起こったことと引き起こされた感情の痛み。
女から女への物語であり、若者から若者への物語。絶望の淵から転げ落ちてもいい話なのに、踏みとどまる物語の勇気が心地いいです。
感情の動きがスリリングなYA小説であり、フェミニズム小説でもあります。

『マルセロ・イン・ザ・リアルワールド』(フランシスコ・X・ストーク:作 千葉茂樹:訳 岩波書店)
 再起動した岩波YA小説シリーズ第二回配本作品です。
 アスペルガー症候群に近い症状を持つマルセロが、父親によって彼の法律事務所で夏休みに働かされることになります。彼のペースを考えてくれる守られた学校から現実世界に放り込まれ、そこで何を感じ、何を学習し、どう動いたか?
 マルセロはその症状により、相手への質問や、自分の考えていることの表明はストレートで裏はありません。しかしリアルな世界は、裏があり、言葉は語られた通りではなく、時に皮肉や反対の意味を帯びますが、彼にはそれがわかりません。それは、逆に言えば、とても正直で隠し事のない思考回路でもあります。例えば愛と、邪悪な愛とセックスの重なるところ、違うところなど、彼は質問し、一つ一つを裏のない言葉へと変換していきます。一方、リアルワールドでは、彼の正直な思考回路ではコミュニケーションに支障が来すこともあります。
 物語は、この入り組んでしまった世界を、マルセロの視点を使って新たに読み返していくのです。
 マルセロの視点は、昔は「子ども」の視点として物語に使われていた、隠し事なく真っ直ぐに物事を見る物に近いですが、現代の情報社会のリアルな子ども像ではそれは難しい。
 この物語の新しさはそこにあります。

『嵐にいななく』(L.S.マシューズ:作 三辺律子:訳 小学館)
 嵐と洪水で町が流された後、「ぼく」たち一家は引越をする。そこで「ぼく」は一頭の馬を手に入れ、心の平安も得るのです。と書けば、なにやら懐かしい動物物語のようですし、実際展開の主軸にはそれが使われてはいるのですが、舞台背景がなにやら不穏です。「ぼく」が飼い始めた馬は、もし労働馬としての役に立たないならば、つまり、飼い主の指示通りに動かないのであれば、処分されてしまうらしいこと。テレビには視聴制限があるらしいこと。嗜好品はとても高いこと。どうやら私たちの知っている今と繋がりながらも少し違う。
 「ぼく」の様々な悩みを聞き、困難の克服をサポートしてくれるのは、歩行もおぼつかないマイケル。彼は一体だれ?
そうした謎をかかえつつ、物語は進行していきます。
時代の物語。

『ぼくの見つけた絶対値』(キャスリン・アースキン:作 代田亜香子:訳 作品社)
 数学者の父親は自分の価値観でしか物を見ない人。ぼくも当然エンジニアになるって決めている。夏休み、父親は田舎のおじさんの進めている科学的プロジェクトを僕に手伝わせることにした。が、それは全く違うプロジェクトだった・・・。人はいいがいまいち頼りにならない大人たちを引っ張って、ぼくはそれを成功に導くべくがんばるのだ。
 ユーモアたっぷりに、自ら、なし得ることの充実感を描きます。

『もうすぐ飛べる!』(越水利江子 大日本図書)
 2000年に上梓された、実際の出来事をベースにいじめをテーマにした物語が再刊されました。あとがきにある、「大人たちがいうムリな勇気なんか持たなくていい。子どもには子どもの勇気があるのです」はいい言葉ですね。

『あそびたいもの よっといで』(あまんきみこ:作 おかだちあき:絵 すずき出版)
 こぐまが縄跳びの紐を拾います。きっとあの女の子のだ。
女の子が縄跳びの紐を探しに来ます。すると子グマが縄跳びをしています。おどろかさないようにこっそりとのぞく女の子。
やさしい気持ちがすみずみまで、あまんワールド。

『後藤竜二童話集』(ポプラ社)
 全五巻で出ました! 改めて今の子どもたちに、後藤竜二登場! です。

『めざめれば魔女』(マーガレット・マーヒー:作 清水真砂子:訳 岩波少年文庫)
 『足音がやってくる』に続いて、文庫化です。おもしろいぞ。

【絵本】
『りんごかもしれない』(ヨシタケシンスケ ブロンズ新社)
 「かもしれない」のですから、そうじゃないかもしれない。と、少年は色々と発想を巡らせていきます。まあその、豊かなことと言ったら。
 「ゆるキャラ」など、見る側に緊張感を与えないかのような緊張感を与えるものがはやっていますが、これはそうしたものとは別物です。
 色々と考え拡げていく世界は、ゆるくはありません。決まり切った発想が溶けていくのですから、実は過激です。そして心地よい。

『だれでもアーティスト 自由研究の宝箱』(ドーリング・キンダースリー社:編 結城昌子:訳 岩波書店)
 著名な絵画は、芸術として強調されすぎているために、子どもたち(と私たち一般人)を身構えさせてしまいます。でも、音楽でも絵画でも小説でも、自分の感じたままでいい。
 といっても、これが難しくて、自分の判断が他の人にどう思われるかも気になってしまいます。もっと力を抜いて作品と向かい合うためにはどうすれば?
 この絵本は、子どもの頃にそんな力の抜き方を身につけさせてくれるでしょう。
 様々な絵や民芸品を解説するところまでは普通の図鑑か解説本ですが、そこからが違います。なんと、それらを作ってしまおうというのです。ゴッホのひまわりを自分のひまわりに、アーチボルトの絵を、本物の野菜や果物で!
 こうして自分の手で作り上げることで、「作品」との距離が縮まり、表現することの面白さと、表現された物を咀嚼する楽しさに出会えるのです。

『海のうえに暮らす』(関野吉晴 ほるぷ出版)
 インドネシア近海で暮らす漂海民バジョの日々を関野が伝えます。彼らは平和を愛する人たちで、闘いからは遠のいていきます。基本的に海からの産物で暮らしを立てられますから、過度な消費も、貯蓄も必要がありません。とはいえ、最近携帯が彼らの暮らしの中にも入ってきました。それが生活をどう変えていくのでしょう。
 とにかく、子どもたちの笑顔がいい。

『きょうはマラカスの日』(樋勝 朋巳:作 福音館書店)
 クネクネさんはマラカスが大好き。仲間のパーマさんフワフワさんとマラカスの会を作っています。さてさて、発表会です。
 と書いても何がおもしろいかわかりませんね。これはもう、絵を見て、その絵のタッチにうふふとなって、ページを繰るリズムを感じて欲しいです。
 読み終わると、なんだかちょっとだけ楽しくなりますよ。

『政治ってなんだろう?』(峯村良子:作・絵 偕成社)
 「きみが考える・世の中のしくみ」シリーズです。『憲法ってどんなもの?』が二巻目。
 子どもの時から、自分で世界を把握していく習慣を身につけるのはとても大切。なぜなら、世界と自分の位置が分からないと人は不安に襲われてしまうからです。
 このシリーズは、しっかりとそこに狙いを定めて、解説していきます。

『グーテンベルクのふしぎな機械』(ジェイムズ・ランフォード:作 千葉茂樹:訳 あすなろ書房)
 ぼろ布を細かくして漉き作る用紙から羊皮紙、装飾に使う金、鋳造される活字。本を構成する様々なパーツが次々と紹介されていき、これから作られるのは世界で初めての活版冊の本。そこに立ち会っているかのような細密で意匠を凝らした画面。
 紙の本から電子書籍へうつりつつある現在ですが、五百六十年前に始まったその偉大な発明が色あせることはありません。情報が爆発的に拡がったのはここからなのですから。

『おむかえ』(吉岡さやか 「こどものとも」四月号 福音館書店)
 動物の保育園のお迎え風景を描いています。お迎えが来るまで、寂しがるよりめいっぱい遊んでいる姿。でも、かあさんが、とうさんが、おじいさんがお迎えにくると、跳んでいく。そんな姿が吉岡の勢いのある画で活き活きと描かれます。でも、一匹残された子は……。

『イソギンチャクのふしぎ』(楚山いさむ:写真・文 ポプラ社)
 潮だまり、海水が引いた後の岩に付着するイソギンチャクから始まる展開が、まず面白かったです。私の乏しい知識ではなんとなく海の中にいて毒針で身を守っていて、クマノミとかの小さな魚が隠れているってイメージしかありませんでしたから。自然が作り出す、たくさんの色彩のイソギンチャクたち。その美しさと、捕食シーンの落差、そしてそして逃げるために動き出すイソギンチャク。ヤドカリに付着し共存共栄。生き残るための様々な戦略。
 楽しいぞ。

『妖怪の日本地図』(千葉幹夫・粕谷克美:文 石井勉:絵 全6巻 大月書店)
 よくもまあ、これでけの妖怪を集めた者です。古今の文献を駆使して、妖怪を探すこと探すこと。妖怪と言えば水上さん経由しか知らない素人の私は、初めて出会う妖怪さんが多くて、ドキドキですよ。

『妖怪探検図鑑』(村上健司:文 天野行雄:絵 あかね書房)
 全2巻で、「身近な山や水辺の妖怪」と「家や学校のまわりの妖怪」というように、妖怪を見つけやすいように(?)工夫されておりますよ。妖怪探し遊びの必携本です。
 これを持って妖怪探しをすると、とてもリアルに感じられて、怖さ倍増です。

『やじるし』(平田利之 あかね書房)
 初のオリジナル絵本。
 シンプルな色使いに、シンプリ画面。そこに展開するユニークな発想。
 やじるしが現れ、女の子はそれを追っていく。と、何故か海に出る。やじるしは船になり乗り込みます。魚が鳥になるのに併せてやじるしも鳥になり…。
 冒険が拡がっていきます。
 心がぱっと開けていく爽快感と同時に安心感もあるのは、やじるしが、先を示してくれているからかな?

『わたしには夢がある』(マーティン・ルーサー・キング・ジュニア:文 かディール・ネルソン:絵 さくまゆみこ:訳 光村教育図書)
 キング、63年の演説の絵本です。シンプルだけど奥深い言葉の連なりは、真実が誰の心にもそのようなものとしてあるはずだという、キングの信念の現れです。
ネルソンは、力強さだけではなく、見開き画面に拡がるパノラマを四季で四分割して時の流れが与えてくれるものと、変わらないものをさりげなく提示し、今もまだ続くキングの闘いを表現しています。
なお、演説の全文は最後に掲載されています。

『ねんねん ねむねむ おやすみね』(ジェニファー・バーン:ぶん デイヴィド・ウォーカー:絵 福本友美子:訳 岩崎書店)
 「おやすみくまちゃん」シリーズのウォーカーの、おねむり絵本。子どもの想像力が、世界中の陸、海、空の色んな動物たちのおやすみ風景へと拡がっていきます。
 きれいな夜空の下で気持ちよさそうに眠る様は、こちらまで眠りにさそいそうです。

『ボタン』(森絵都:作 スギヤマカナヨ:絵 偕成社)
 森、スギヤマ、名コンビによる新作絵本。
 母親がしまっているボタンの缶。どの家にもきっとあるでしょう。私も持っています。
 少女は、それを開け、様々なボタンを眺めながら、その歴史を空想します。母親はこのボタンのついたどんな服を着ていたのだろうか?
 キルトが親子を繋いでいく国もありますが、ボタンは万国共通に家族を繋ぐものかもしれませんね。
 彼女は、色んなボタンを付けた服を作ってお出かけです。

『たまごサーカス』(ふくだじゅんこ ほるぷ出版)
 こわ〜くて、ドキドキの、たまごのサーカスです。だって、いつ割れるかわからないものね。
 ハンプティ・ダンプティのようなタマゴたちの大サーカス。空中ブランコで、あ〜落ちてくる! どうなる?
 子どもの夢の賑やかさが一杯です。
 コラージュを目立たせないふくだの手法もいいですね。

『アブナイかえりみち』(山本孝 ほるぷ出版)
 男の子の放課後絵本。
 かえりみち、彼ら一号から五号は、謎の王宮へと探検をするのだ。彼らの前に立ちはだかる怪獣、怪物、恐竜。くじけない彼らは進む。そしてついに王宮発見! さあ、おうちにかえりましょう。かなりアホに見えるでしょ。うん、アホなんです。
 山本のなじみやすい画は、今作でも健在。いいですね。

『社会保障ってなに?』(峯村良子:作・絵 偕成社)
 「きみが考える・世の中のしくみ」シリーズ四巻目です。『法律と裁判ってなに?』が三巻目です。
 社会保障の仕組みをわかりやすく解説していると同時に、それは読者である子どもたちにも関係していることを説明している点も良いですね。

『湖の騎士ランスロット』(ジャン=コーム・ノゲス:文 クリストフ・デュリュアル:絵 こだましおり:訳 小峰書店)
 世界の名作絵本シリーズ最新作。アーサー王伝説の中でもよく知られているランスロットの物語を採り上げています。このシリーズの絵はいつもおもしろいのですが、今作はしっかりと描き込まれたリアルで奥行きのあるタイプではなく、素朴なタッチで、ルネッサンス以前の雰囲気です。

『考える力 はじめてのロジカルシンキング』(大庭コテイさち子 偕成社)
 考えは整理してこそ、その意味を発揮します。京大式カードからマインドマップまで、様々な方法がありますが、この本はそうした整理の仕方を解説しています。自分の考えたことを整理する癖をつけておけば、それは力になります。算数・数学の公式を覚えるのに苦労する子どもも多いのですが、実は考えを整理する癖があれば、公式は暗記するのではなく読み解いた方が記憶しやすいことにも気づけるでしょう。
 「私の任せておけば大丈夫」的な政治家が支持され、愚民化されつつある現在、自分で考える力こそ、一番大切なのです。

『およぐひと』(長谷川集平 エルくらぶ)
 流れに逆らって泳ぐ人がいた。家に向かって。そして消えた。電車の中、赤ん坊を抱いた人。遠くへ、ここではない遠くへ逃げたいという。そして消えた。
 3.11の鎮魂歌。言葉にできない様々な、それぞれの想い。

『うしろのダメラ』(あきやまただし ハッピーオウル社)
 自分をだめだと思い込んでいる恐竜の子どもダメラくん。かれを、友達たちがいかに励まし、自信を付けさせるか。
 絶好調、あきやまただしのほんわか愉快な世界です。

『ちんどんや ちんたろう』(チャンキー松本:さく いぬんこ:え 長崎出版)
 この組み合わせて、淡いわけがない。濃い〜世界がくりひろげられます。
 しんたろうはちんどん屋になりたい。稽古は苦しいけれど負けへんで。
 銭湯がつぶれそうなんを知ったしんたろうは、ちんどんで宣伝することを思いつく。それが、しんたろうの想いを込めたちんどんデビューとなるのやった。
 いぬんこは、巧いなあ。

『恐竜研究室3 恐竜絶滅のなぞ』(ヒサ・クニヒコ あかね書房)
 シリーズ三巻目。ついに絶滅について語り、描きます。
 環境の変化、生態系のバランスなどが、興味深くかつわかりやすく説明されていきます。
こういうのは、やっぱり子どもの時、ドキドキするのですよね。久しぶりに子どもに返りましたよ。

【その他】
『読書力アップ! 学校図書館の本えらび方』(赤木かん子 光村教育図書)
 学校図書館作りのためのガイドブック三冊目。今回は選書。1100冊の本が日本十進分類法に沿って並べられています。もちろんこれだけの本では足りませんし、あくまでかん子の選書ですから、だいたいのイメージを作りやすくするために使えばいいでしょうし、使えます。
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