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2009.10.21

       

【絵本】
『ちいさい みどりの はこ』(岡井美穂 「こどものとも・年中向き」2009.11)
 引っ越しの準備。
 「ぼく」は小さな緑の箱におもちゃを入れることにする。もちろん、こんな小さな箱ではとても入りきらない。箱をひっくり返すと大きな箱が次々出てきて、「ぼく」は大切な物をいっぱい、いっぱい詰め込む。
 トラックに載せたら、荷物が一番多いのは「ぼく」!!
 やがて、トラックは新しい家へ。
 あれ? 「ぼく」のは小さな緑の箱だけだ。
 でも、それを開けると・・・。
 子どもが持つたくさんのおもちゃへの欲望と、それより大切なたくさんの思い出を、岡井は見事に表現しました。
 すごい。(ひこ)

『エド・ウィーナ』(モー・ウィレムズ:作 青山南:訳 光村教育図書 2009)
 町で人気者の恐竜エド・ウィーナ。
 でも、ドゥビーだけは違いました。
 本には恐竜は絶滅したって書いてある。だからエドはいてはいけないんだ。
 でも、やっぱりみんなは、エド・ウィーナが好き。
 そこでドゥビーはエド・ウィーナに、君は絶滅したと説得するのですが・・・。
 おしゃれなエド・ウィーナの姿がまず、よろしいな。
 この作品、愉快な仕上がりで、それだけでもうOKなのですが、「知」を巡る非常に優れたメタフィクションでもあります。
 物事を考えるための、本当に大切は基礎を子どもは知るでしょう。
 この基礎を、学校のヘタな授業や、そのヘタな授業をただ恣意を信じて育った親が壊してしまわないように願います。
 恐竜好きの子どもには、同じ光村から出ている『ウォーターハウス・ホーキングの恐竜』も併せてどうぞ。(ひこ)

『なみ』(スージー・リー 講談社 2009)
 波と少女の戯れを、言葉を廃して、スジー・リーは見事に描き出しています。
 木炭画の表情豊かなタッチに、清々しい水彩の青。
 音と言葉が間違いなく届いてきます。
 気に入った子どもは繰り返し眺めるでしょうね。
 そう、読むというより眺める。(ひこ)

『なんの ぎょうれつ?』(オームラトモコ ポプラ社 2009)
 行列の最後尾五〇番目のカエルから始まって、ページを繰るごとに、前へ前へと進みます。
 このページを繰る動きと、先頭までの様々な動物の小さなドラマが上手くかみ合って、楽しい仕上がりです。先頭は像なのですが、その後の展開がまた、愉快。
 絵本の機能を存分に活かした一品です。
 書店は、いくら安全パイだからって、いくら子どもがよろこぶからって、いつまでも『はらぺこあおむし』だの『おおきなおおきなおいも』にばかり頼っていないで、こうした新しい連鎖物を、自信を持って売っていって欲しいな。
 でないと、作家が育ってこないので、結局じり貧になるのです。(ひこ)

『ながい なが〜い』(かつらこ:さく くもん出版 2009)
 こちらも連鎖物です。
 かあさんねこのしっぽはなが〜い。
 そのシッポでお魚を釣ります。子猫は二一匹だから、お魚はかあさんねこの分も入れて二二匹ね。
 と、たくさんたくさんのあり得ない数の子猫のかあさんですから、ここからのお話は楽しいほら話だと子どもにもわかります。
 子猫たちの細かな物語もありますから、自分で読めるようになってからも楽しめます。(ひこ)

『だっこ べんとう』(木坂涼:文 いりやまさとし:絵 教育画劇 2009)
 この奇妙で魅力的なタイトルのお話はまず、おにぎり二つのお相撲から始まります。
 カリフラワーとブロッコリーは似たもの仲良し。
 そうした様々なおいしい食べ物が、弁当箱にだっこされるという寸法です。
 子どもが楽しくお弁当を食べるための、詩人からの想像力のプレゼントです。(ひこ)

『エンザロ村のかまど』(さくまゆみこ:文 沢田としき:絵 福音館 2009)
 「たくさんのふしぎ傑作集」です。二〇〇四年発表。
 さくまは、「アフリカ子どもの本プロジェクト」(http://www.hananotane.com/index.html)の活動(と同時にアフリカおよびアフリカ系の絵本を積極的に日本に翻訳紹介)していますが、この作品はその原初ともいうべきもの。
 さくまが訪れたケニアの村で、岸田袈裟さんが始めた竈作りと、それによる生活の改善が詳しく語られています。
 人の知恵というものは、様々な場所で生まれるので、それをまだ生まれていない場所に伝播させるのはとても重要です。
 竈のエネルギー効率の良さがうまく生かさせて、労力の軽減につながり、また、それで生まれた時間でわらじを作り、足のけがを少なくするなど、生活に密着した知恵の力を示してくれます。
 政府援助もこういうことに使われれば効率がいいのですが。
 沢田としきの絵がピタリ。(ひこ)

『1つぶのおこめ さんすうのむかしばなし』(デミ:作 さくまゆみこ:訳 光村教育図書 2009)
 インドの昔話でしょうか。算数を使った知恵の物語。民衆から穀物を税として召し上げ続ける王が、いざ飢饉の時も民にそれを分け与えない。そこで一人の娘が考えたのは、最初の一日は一粒だけもらい、毎日その倍をいだたくという方法。一粒だけならたいしたことはないと考えた王でしたが・・・・・・。
 数学の楽しさがわかりやすく伝わってきます。私もこんな楽しさから、数学に目覚めました。高校くらいまでの数学は、コツさえわかれば簡単なんですね。コツは、その問いの全体を地図のように眺めること(知恵の輪って、難しそうだけど、判れば簡単じゃないですか。あれと一緒)。そのセンスを磨くのに良いのは物語。物語って、全体を常に見渡していないと、進むにつれ判らなくなるじゃないですか。
 だから、算数・数学を得意になりたい人は、物語と接しましょう。
 それはともかく、デミの画を堪能ください。細密画をコンピューターでレイアウトしているそうですが、違和感なくそこにあります。
 すばらしい。(ひこ)

『カタカナ ダイボウケン』(宮下すずか:さく みやざきひろかず:え 偕成社 2009)
 傑作『ひらがなだいぼうけん』の続編です。カタカナが来るのは当然と言えば当然。
 「ン」と「ソ」、「シ」と「ツ」など、みんなでワイワイやっていて、やっぱり楽しいです。
 これは基本的に理屈の世界ですので、ひらがな、カタカナの後、文字を離れて、どんな素材を宮下が料理してくれるかが、興味深いところです。
 偉大な魔術師二宮由紀子とは別の、新しい展開をワクワクして待っています。(ひこ)

『おねつをだしたピーパー』(シャーロット・コーワン:文 スーザン・バンタ:絵 にしむらひでかず:訳 サイエンティスト社 2009)
 幼児とその親のための医療教育絵本です。
 国民皆保険は社会主義的だとしてなかなか実現しない奇妙な国アメリカで、国民皆保険制度を推し進めるオバマが推奨する絵本です。
 カエルの子どもピーパーを主人公にして、病院や医療についてわかりやすく解説しています。ただし、アメリカのそれなので、治療方法など、かなり違いますことに驚かれるでしょう。そこが読みどころ。この違いを知って、良い意味で、医療のアバウトさを知れば、キリキリしなくなれます。(ひこ)

『おばけやしきに おひっこし』(カズノ・コハラ:作 石津ちひろ:訳 光村教育図書 2009)
 版画に、おばけさんは透ける紙素材でコラージュして、シンプルながら独自な世界を作っています。
 画は、彫りのタッチの勢いで見せるのではなく、むしろ版画表現そのものを見せようという丁寧な作り方で、それが却って新しさを醸し出しています。
 ストーリーは、お化け屋敷に住むことになった女の子が、さっそく現れたお化けたちと遊んだり、カーテンやお布団に使ったりと、和やかです。
 お化けが出てくるのに、とても日常的世界が展開する辺りが、ツボ。
 良いです。(ひこ)

『あっぱれ! てるてる王子』(コマヤスカン:作 講談社 2009)
 第三〇回講談社絵本新人賞作です。
 デビューおめでとうございます。
 てるてる坊主の王子様が、明日が遠足の子どもたちが作ったてるてる坊主の願いに応えて、台風殿下をやっつけるお話。
 といっても、かわいらしい願いを、かわいらしくかなえてくれるといった作品ではなく、空を舞台に雄大かつ壮大な戦いが展開される模様を作者は力強く描いていきます。
 見せ方が巧いなあと思っていたら、作者紹介に「10歳の時に『スター・ウォーズ』に感化されイラストを描きはじめ」とあり、納得。ルーカスの絵作りは、引きが基本で、語り手の視線を観客に意識させ、共有することで、物語への参加感を強化しますが、この作品もそうした効果を出しています。
 とはいえ、これは諸刃ですので、コマヤスカンにとっての今後の課題となるのでしょう。(ひこ)

『ありがとう しょうぼうじどうしゃ』(内田倫太郎:文 西村繁男:絵 ひかりのくに 2009)
 内田&西村による、はたらくくるま物です。
 はたらくくるま物は、アリキとの差異をどうつけるかから始まらざるをえないのですが、さすが内田は、とんでもないところからはたらくくるま物にアプローチです。
 山火事で消防車が出動! でも、水が足りない。そこでお手伝いするのが、カッパたち! というわけです。(ひこ)

『どうろせいそうしゃ』(蒲田歩 福音館 「かがくのとも」2009.10)
 こちらは、リアルなはたらくくるま物です。
 展開は、出動準備から、仕事を終えるまでを過不足無く丁寧に、解説しながら描いていきます。
 なかなか目にしない車ですから、子どもは興味津々でしょうね。と同時に、「仕事」についてもちょっと考えられますね。
 ところで、パリには細い道路にも入ることができる緑のかわいい清掃車があるのですが、日本にも小さな清掃車はあるのかしら? あったらみたいなあ。(ひこ)

『くろくんとなぞのおばけ』(なかやみわ:さく・え 童心社 2009)
 くろくんシリーズ三巻目。私はお初です。
 一〇色のくれよんくんたち(セットで、八色や一二色ではなく一〇色は、ないわけではありませんが、珍しい数ですね。その辺りは一巻目に説明があるのかもしれません)の黄色くんが消えて、そのあと次々消えていき、最後は黒色くんだけに。
 みんなどこへ?
 という謎が、物語を生み出していきます。10の個性を出すのはなかなかむずかしく、だからここではむしろ逆に「くれよんくん」で統一している感じですが、それは悪くはありません。
 ただ、「ええ話し」より、「楽しい話し」の方が良かったのでは?(ひこ)

『おへや だいぼうけん』(ほりかわりまこ 教育画劇 2009)
 すてきな絵描き、ほりかわりまこの新作です。
 雨で退屈な日、チーズの家にポプリが遊びに来ました。
 二人のごっこ遊びはどんな世界?
 ネコのムッシュも加わって、ごっこ遊びの世界で二人は世界中を飛び回ります。
 オチまで一気に読ませます。
 絵の方は、雨から始まって、ごっこ遊びの世界はもう少し明るくした方がもっとメリハリがついたと思います。オチの辺りが少し暗めな設定ですから、雨→快晴→暗め→快晴というリズム感が欲しいです。(ひこ)

『コレで なにする? おどろきおえかき』(大月ヒロ子:構成・文 福音館 2009)
 アートの自由さを、描く道具に注目して構成した絵本。
 主に半世紀前、戦後の混乱の中から生まれた(ナチスや日本軍による思想統制への反動もあるでしょう)作品を使いながら見せていきます。
 表現すること自体のおもしろさ、躍動感を子どもたちに伝えてくれる作品です。
 と同時に、キュレーターのお仕事の大事な部分を示してくれています。
 こういう絵本、もっと欲しいです。(ひこ)

『えーと、えーとね、ぼくペンギン?』(エーデル・ロドリゲス:さく むらいかよ:やく ポプラ社 2009)
 ペンタは確かにペンギンなのですが、一つ問題が。
 泳げない・・・。
 なのに今度遠足で海に行くことに。
 どうする、ペンタ?
 お約束通りに展開するので、大人には意外性はありませんが、子どもはおもしろがるでしょう。
 五〇年代を彷彿とさせるタッチと色調が新鮮で、良いです。(ひこ)

『くものこ くーと』(さとうめぐみ:作・絵 教育画劇 2009)
 「まじょ」シリーズでおなじみの、さとうめぐみの新作です。
 雲の子どものくーは赤い風船の中に閉じ込められていた風の子を助けます。
 そこからくーの、楽しい、空の冒険の始まりです。
 様々な雲に隠れたくーを探したり、黒い雨雲を退治したり。
 ストーリーそのものは、「まじょ」と違ってシンプルです。くーと一緒にふわふわ感を楽しむ絵本です。(ひこ)

『げんきでいるからね』(鈴木まもる 教育画劇 2009)
 ポケは山中に捨てられていたのを拾われた犬。家にはすでにルポがいました。
 ルポは最初少し怖かったけれど優しくて、ポケの面倒を見てくれます。
 大切なルポ。
 でも、ルポはだんだん衰え、やがていなくなりました。
 ポケにはそれがどうしてか判りません。
 という風に展開し、ポケがルポの死を受け入れるまでを描きます。
 ルポのいなくなった犬小屋に小鳥が巣を作り、子育てをするのをポケが守ることで、心が再生していくのです。
 もしかしたら実話かもしれません。というのは物語的なリアルとしては、これはやり過ぎだからです。
 こうした展開でなくても、鈴木まもるなら、このテーマは描けるでしょうし、その方が訴える力は強いと思いますが。
 良いテーマだけに少し残念です。(ひこ)

【児童文学】
『靴を売るシンデレラ』(ジョーン・バウワー:作 灰島かり:訳 小学館 2009)
 原題は「Rules of the road」ですから、全く違いますが、訳者後書きにある通り、これはシンデレラ物の優れたパロディとしても読めます。
 ジョナは靴店でアルバイトをするティーン。客の気持ちに添って商品を勧める才があり、売り上げもいい。そんな彼女を見込んだ年老いた女社長は、ジョナを自分の運転手に抜擢し、アメリカ中にあるチェーン店を回る。その旅の最終地点は、社長の息子が、この質のいい靴を売る企業を、金儲けのために安売りチェーン店に吸収合併しようと目論む株式総会。さて、二人は、この企業を守れるか?
 物語のこの中心ライン、新しいシンデレラストーリーは、楽しく読めるようにするための方策でもあります。
 主軸は、アルコール中毒の父親への複雑な思いをジョナが整理し、親子であると同時に、向かい合う人間として父親を受け入れ、拒絶するところにあるでしょう。
 かなりきついはずのそうした主軸を、楽しい物語の中に溶かし込んだバウワーはすごい。(ひこ)

『緑瑠璃の鞠』(久保田香里:作 岩崎書店 2009)
 『氷石』で実力を見せた久保田の新作。
 都を騒がず盗賊と、鬼にもらった、悲しみを忘れさせる鞠をもらった姫の物語。
 あちこち色々絡まってくるので、あらすじは言えませんが、巧く展開し、巧く閉じています。
 素材の量が少ないのですが、本を読み慣れていない読者にはこれくらいが、入り口としてちょうど良い加減かもしれません。
 物語というもののおもしろさを判ってもらえるでしょう。(ひこ)

『黒魔女コンテスト』(エヴァ・イボットソン:作 三辺律子:訳 偕成社 2009)
 偉大なる魔法使いのアリマンは、血筋を残すために結婚を決意する。お相手は黒魔女となるのだが、花嫁候補に集まった黒魔女たちは、なんだかとんでもない連中。最高の黒魔法を使いこなした物を花嫁にするというけれど、アリマンはあまり乗り気ではなく・・・。
 イボットソンは、いかにも楽しげに様々なえげつない黒魔法を描いていきます。
 いやあ〜、なかなかすごいです。黒鳥千代子さん、近づいてはいけませんよ。
 最後はおとぎ話風にめでたしめでたし。(ひこ)

『ママ・ショップ 母親交換取次店』(セシ・ジェンキンソン:作 斎藤静代:訳 主婦の友社 2009)
 オーリーは、好きなテレビ番組を見せてくれないママを交換したいなんて思ったのだけど、え! 本当に交換してくれる店があった。オーリーに頭に来ているママも喜んで交換されちゃうし、新しいママはどんな人だろう。でも、本当にこれで大丈夫なんだろうか?
 交換可能な親というのは昔から子どものあこがれであります。そして、親子の関係性の変化によって、今時は、それでもいいんじゃないといった感性も育ってきています。
 そんな時代のエンタメです。
 子どもの本音と、現実がうまく交錯して、楽しめます。(ひこ)

【ノンフィクション】
『ヒポクラテス』(ルカ・ノヴィッリ:文・絵 関口英子:訳 岩崎書店 2009)
 ルカ・ノヴィッリによる「天才!? 科学者シリーズ」全一〇巻が刊行されました。
 イラストと文で、天才たちの一生をユモアも交えて小気味よく描いていきます。
 このシリーズがいいのは、彼らがいかに偉い人かだけではなく、彼らの目を通して、時代とその限界をもちゃんと示している点です。偉人伝ではないわけです。
 かなり細かく時代背景、社会背景にも触れていますから、大人だって十分楽しめます。知らないことがいっぱいでてきます。
 学校に入れやすい企画の本なので学校図書館は買うでしょうから、そこで子どもたちが、授業と関係がなくても、こんな歴史や人を知って欲しいな。それが教養を作るし。
 西洋人ばかりなのが残念ですが、そこは、日本で企画しましょうよ。(ひこ)