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2007.11.25

       

しばらくでした。令丈ヒロ子です。
今回の特集は「それって、そんなにおもしろい?」とわたしが思わず、作者に聞きたくなった本です。
若い人に読んでもらったらいいんじゃないかという、ノンフィクションばかりなんですが、いや、もうどの書き手の人も、楽しそうで。
自分のテーマに夢中!という感じがいいんです。

まずは「青春ロボコン―『理数系の甲子園』を映画にする」です。
作者は、映画「青春ロボコン」の監督、古厩智之。岩波ジュニア新書(2004年1月刊)です。
映画「青春ロボコン」はおもしろかった。
ロボコン自体が好きでしたから、とっても映画が楽しみでした。ロボコンというのは、「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト」のことです。NHKで放送していまして、学生たちが作ったロボットを持ち寄り、戦わせ、ロボット作りの技術を競い合う、めっちゃおもしろい「理数系の甲子園」です。
これを映画にしませんかという依頼が古厩監督にあったところから、この本は始まります。
古厩監督の熱い語りがのっけから始まります。
「とにかく、演出を依頼された僕は、一も二もなく引き受けました。返事が速すぎて多分、重みに欠けていたでしょう。」
古厩監督は、なぜロボコンを映画にしてみたいと思ったか、ロボコンのテーマとはなにか、自分が映画に夢中になったきっかけから、すばらしいテンポといきおいで語り始めます。
実際の映画ができる過程でなにがあったか、どうやっていろいろな問題をクリアしたか、どんな気持ちでそのシーンを撮ったか、今でも後悔しているところなど、撮影台本「ロボコン」と豊富な写真の合間に「監督メモ」としてはさまれます。
これがすごい臨場感。
監督メモもだんだん長くなり、後半など台本よりも長い監督メモがはさまれていきます。だんだん、最初はこの本の構成上「撮影台本」がメインだったのが「監督メモ」にその地位を奪われていく様子が感じられます。
監督は「映画作りは面白い。その面白さの本質に僕はまだ片手も届いてませんが、その魅力の一端でも皆さんにお伝えできればと思います。」と書いてらっしゃいますが、たいへんよく伝わりました。ありがとうございました。

この本はすごいですよ。
「調べるっておもしろい!わたしの名字はどこからきたの?」
十日市晃子著・アリス館(2000年3月刊)
これを書いた十日市さんは、青森県八戸市在住の、当時六年生の女の子でした。
彼女が「十日市」という自分の名前に興味を持ったのは、家の近所には「十日市」という家は自宅を含め6軒あるのに、学校や習い事の場では、同じ名前の人は一人もいないということに、疑問をいだいたことからでした。
「十日市」という名字の人は全国にどれぐらいいるのか。「十日市」の由来はなんだろう。
十日市さんは、すぐにそれを調べ始めました。はじめはインターネットの、名字のことを調べているサイトからでした。
「日本に多い名字ランキング」を見たら、十日市は結局、二万七百三位。東京・神奈川でたった三軒しかないことを知った十日市さんは、また知りたいことが増えてしまいました。
「八戸には、『十日市』という名字の人はどれぐらいいるのだろう」「八戸以外の地域にも『十日市』という名字の人はいるのかなあ。」「八戸市にある『十日市』という地名と、『十日市』という名字にはないか関係があるのだろうか。」
「これがわたしの名字探検の始まりでした。」
いや、うまいですね!六年生!抜群のヒキで一章を結んでいます!
十日市さんは、電話帳で同じ名字をさがし、図書館で「十日市」に関係する本をさがし、どんどん謎に迫っていきます。
名前の事典から、「毎月十日に市がたつため十日町や十日市などの地名が発生」したことや、「数の十は、目的の叶うめでたい印」であることなどを知ります。
さらに八戸で名字について調べている人が書いた、古い新聞記事から「十日市」についての記述を見つけ出します。そこには八戸市だけでなく、遠野市や十和田市にも十日市姓の人がいることが書かれていました。
実行力があり、全く迷いのない十日市さんは、岩手県と北海道と電話帳から同姓の人を探します。
十日市さんはここで、また知りたいことができました。
「なぜ、八戸市を中心に十日市が分布しているのか。(調べ物が進むにつれ、作者の言葉使いも歯切れよく、研究者っぽくなってきます。)なぜ八戸とは離れている地域にも十日市がいるのか。」
ここの発想がすごいんですが、十日市さんは、「自分の先祖をたどろう」と思いつきます。
十日市の先祖と遠野市との関係を調べることにきめた十日市さんは、親戚以外の十日市さんみんなに、教えてほしいことをアンケートの形にして、手紙を送ります。
また役所で戸籍と除籍謄本を調べ、お寺でお位牌や、お墓の横にある墓誌なども見せてもらったり、家の仏壇にあった過去帳を見て、自分のご先祖様のことを知ります。十日市さんはそれを見て、多くの先祖の「わたしはむかしこの世に生きていた」というメッセージを感じるのでした。
アンケートの返事は続々とかえってきました。
そこから十日市さんは、古文や古書にくわしい十日市さんというおじいちゃんに出会い、また名字や家紋の専門家である丹羽基二先生に出会います。
東京の丹羽先生の家に招待された十日市さんが、そこで交わした会話が、この本の後半です。いやもう、その会話の熱いこと!
自分の名字に興味を持った六年生の女の子は、いつのまにか歴史と名前との関係や、名字と苗字のちがい、家を途絶えさせないためにおこなわれた養子縁組のことから、夫婦別姓のことまで考える、「研究者」になっていたんですね。ここの二人の会話シーンの濃い内容には、何度読んでも圧倒されます。
十日市さんは、その後もいろいろなことを調べ続け、
「ぜんぜんわからなかったことが少しずつ網の目がつながるようにわかってきました。」
と述べています。そして丹羽先生の言った、
「調べていくと、世の中にはわからないことがある、ということがだんだんわかってくるんだよ。」
という言葉を思い浮かべて、自分もこれから少しずつ十日市の謎を解き明かしたいと思うのでした。
どうです?すごいでしょう。
1987年生まれの作者は、二十歳になって、今もこの研究を続けているのでしょうか。

ノンフィクションライターだって、熱さ、楽しそうさで負けてません。
「銀座木村屋あんパン物語」大山真人著・平凡社新書(2001年7月刊)
これを読んだとき、私はあまりにも感動して、この本を多くの人に貸し、強制的に読ませました。
ああ、あんパンにはこんな歴史があっただなんて!
そりゃ、丸善のハヤシライスだって有名だし、鳩サブレのなりたちだってとってもイイんですがね。(鳩サブレの缶の中に入っている小冊子を読んでからは、鳩サブレのことを「鳩さぶろう」と言ってしまいます。)
この本の帯にはこう書いてあります。
「究極の発明品?家族愛、職人魂、義侠心。幕末の江戸、新生東京を駆け抜けた、あんパンメンたちの熱きドラマ」
うまいこと書いてあります!この通りです!
清水の次郎長とか、山岡鉄舟、将軍慶喜、明治天皇までが、このあんパンにかかわってくるとは、いったい、あんパンって何者?と思いました。
この話を、なにかの番組で、ドラマ仕立てでやっていました。番組の放送中に、家族から仕事場に電話があり、
「今すぐテレビつけ!あんパンが!あんパンがやってるで!」
「うそーっ!」
残念ながら、かなり話はすすんでおり、前半は見逃しましたが。大事なシーン!天皇陛下が、あんパンのおいしさに感心され、木村屋さん一同が、涙にくれるというところはちゃんと見ることができ、テレビの前で正座し、拍手をしました。
この本を読んでから、どんなものにも必ず作った人とその歴史があるんだ感が、とても強くなりました。
誕生秘話ものがもともと好きだったんですが、これはもう抜群。

そして、熱さと、楽しそうさがピカ一!
「それって、そんなにおもしろい特集」の真打ちです。
「チョコやココアで噴火実験・世界一おいしい火山の本」
林信太郎著・小峰書店(2006年12月刊)
2007年6月で4刷り!いい感じですね!
火山学者の林先生は、料理が趣味です。
ある日キッチンに立っているときに、ひらめきました。
大好きなチョコやココアで火山の実験をしたら、大勢の人に楽しんで火山のしくみをわかってもらえるのでは?
さっそく林先生は、学会で「ココアとチョコレートで作るクリプトドーム(溶岩ドームの一種)」を講演したところ、大好評。
「その日以来、ぼくはキッチン火山学者になってしまったというわけである。」
林先生は、「火山はめったに噴火しない。これからの人生が長い子どもたちのほうが、おとなたちよりも、将来、噴火に出会う可能性が高いのである。」という、もっともな理由で、小学生にこの実験を見せ、教え始めました。
溶かしたチョコレートをココアパウダーの中に注入し、できたトリュフチョコレートは、潜在溶岩ドームと同じ構造である…という実験や、コンデンスミルクとココアでカルデラを作ってみる…という実験は、子供たちに大人気だったそう。すごくおもしろそうですよねえ。しかも先生には味にこだわりがあるみたいで、美味しいものしか作ってないご様子。そしてわかりやすい!
「スポンジケーキとココアを使った土石流実験」の項を読んで、私は初めて土石流のことが、感覚的に理解できました。
この本を通して、林先生は、火山と噴火のことについてたくさんのことを教えてくださるのですが、私が楽しかったのは、林先生のちょっとした注コメント。
「ぼくに限らず、火山学者にはガメラ好きが多い。きっと、ガメラの吐き出すプラズマ火球がマグマを思いださせるからだろう。」
「『スターウオーズ エピソードV』『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』のクライマックスシーンがおすすめ。これらのねばりけの弱い溶岩の流れるようすは、特撮やCGで作られているが、本物とよく似ている。」
などの火山のことが大好きすぎる、コメントの数々。
富士山は必ずいつか噴火する。そのときはどれだけの被害が予想されるか、(富士山噴火の推定被害総額は札束にして積み上げたら、富士山の六倍の高さになるという図つき。おもしろい工夫すぎて、かえってピンとこない…。)など、厳しいことも、ばんばん書いてあるのですが、林先生の火山への愛は深かった。
「火山はきびしい」という章で、おどろかさず、怖がらせず、深刻ぶらず、厳しい本当のことをきちんと伝えた後に、ちゃんと「火山はやさしい」という章を書いています。火山の恩恵についての章です。(私の好きな「温泉」の存在も、もちろん火山の恩恵の一つですね。)
林先生は火山について、「『試練と恩恵』を人びとにあたえる存在というと、まるで「神」のようである。」と語っています。
そしてシメは「噴火の時にどうすればよいか」。
「答えはかんたんである。いざ噴火というときには、危険からさっと逃げてしまえばよいのである。(中略)超巨大噴火でないかぎり、遠くまで噴火が追いかけてくることはない。」
大変あっさりとしたアドバイスですがしかし、これ、よく考えてみれば意外と実行できないかもしれません。
家がどうとか、家財道具がどうとか言っている間に、災害に飲み込まれるかも。
気象庁などから警告があったら、迷わず逃げましょう、ご近所の人がだれも逃げないのに自分だけ避難したら恥ずかしいなどと思わないこと、という注意を見ると、確かに!
近所になにか言われるのを恐れて、避難のタイミングを失うというのはリアルな恐怖です。
みなさん、噴火からは、さっと逃げましょう!

 ではまた!
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『ヒトラーのはじめたゲーム』アンドレア・ウォーレン 林田康一訳 あすなろ書房 2007年11月
『本泥棒』マークス・ズーサック 入江真佐子訳 早川書房 2007年7月

                             三辺律子

 今月は、ホロコーストをテーマに描いた上記二冊を紹介したい。前者は、収容所に送られたユダヤ人の男性の証言をまとめたノンフィクション、後者は、1975年オーストラリア生まれの戦争を知らない世代の著者が描いた長編小説だ。片や子ども向けに出版され、片や著者初の大人向けの作品である(ただしアメリカではYAとして出版、優れたYA作品に贈られるプリンツ賞のオナー賞を受賞している)。
 ジャンルも分量もトーンもまるでちがう二冊だが、ひとつ、はっとさせられる共通点がある。ナチの迫害を受けるユダヤ人の登場人物が、想像の中でヒトラーとゲームをすることだ。ゲームとは本来「勝ち負けを争う遊び」(大辞林)であり、遊びなど入り込む余地のない危機的な状況とは一見そぐわないように思えるが、実際はこのゲームこそが彼らを救うことになる。

『ヒトラーのはじめたゲーム』は、教科書に載っている収容所の写真が恐ろしくて、「できるだけこのようなことには近づかないようにしよう」と思っていた著者が、収容所からの生還者との出会いをきっかけに記した、あるユダヤ人男性の想像を絶する恐怖と苦しみの体験の記録である。
ポーランドの美しい町グディニアで何一つ不自由のない幸せな生活を送っていたジャックは、十五歳のとき、家族と引き裂かれドイツの強制収容所に送られる。「ある囚人がカポや監視兵に殴られる場合、なぜ彼でなくてはならなかったのか、どのようにして彼が選ばれたのか、だれにもわからなかった」。そんな、あまりにも不条理な収容所生活で彼を支えたのは、最初の収容所で出会った元床屋の男性の言葉だった。
「ここで起こることはすべてゲームだと思え・・・(中略)・・・うまくゲームをするんだ。そうすれば、ナチスより長く生きることができるかもしれない」
 ゲームのルールは「余分な食べ物を手に入れろ」「注目されるようなことをするな」「友だちを大切にしろ」「健康に気をつけろ」。そしてゲームの敗者に待っているのは「死」。ジャックは「ヒトラーが始めたこのゲームで、ヒトラーに勝つ」ことを決意し、赤痢やチフスを克服し、モーニクという親友を得て、コックの仕事にありつき、ナチスの目を盗んで食べ物を収容所の人々に分け与え、ついに生きて終戦の日を迎える。

 一方『本泥棒』でヒトラーとゲームをするのは、主人公の少女リーゼルの家の地下室に匿われることになったユダヤ人青年マックスだ。
 この作品は風変わりな構成を持っている。語り手が死神なのだ。死神は、人間の語り手との違いをことさら強調するように、冒頭からいきなり物語のキーワードを羅列する。「少女、言葉、アコーディオン弾き、熱狂的なドイツ人、ユダヤ人のボクサー、多くの盗み」。そしてその後も、何のためらいもなく、前もって登場人物たちの運命や生死を明かしてしまうのだ。
 死神は、葬式が行われている墓場で、幼い少女が落ちていた本を盗むのを目撃する。以来、この幼い少女すなわちリーゼルが、母と生き別れてフーバーマン夫妻に引き取られ、養父ハンスに文字を読むことを教わって言葉の力に目覚め、やがて焚書の山や町長夫人の家の図書室から本を盗む「本泥棒」となっていくさまを、死神ゆえの客観性と、死神らしくない人間への深い共感が入り混じった不思議なトーンで語っていく。
 リーゼルの周囲の人々のほとんどが、大なり小なりヒトラーの犠牲者である。仕事を奪われ、生活を奪われ、肉親を奪われ、自分の命を奪われた者もいる。なかでも、自分が「このままだと消えてしまう・・・・・・自分が溶けてなくなってしまう」という、ある意味で死より恐ろしい喪失に直面させられたのは、ユダヤ人のマックスだった。
 マックスは彼から何もかも奪おうとするヒトラーと戦うため、空想の中でヒトラーとボクシングのゲームをする。何度も何度も。夢の中での勝利を手に入れるため、実際にマックスは腕立て伏せや腹筋をして体を鍛え始める。そして、その約二年後、ナチスの兵士に「立て(、立たなければ殺すぞ)」と命じられたマックスは、みごと「まっすぐに立ち上がる」のだ。

 ジャックやマックスが立ち向かわなければならなかったのは、圧倒的な不条理だった。なぜ彼らが選ばれたのか、なぜこんな目にあわなければならないのか、そこには正義はもちろん、理由も原因も根拠もなにもない。
 だからこそ、死神は結末を先に漏らしてしまうのかもしれない。誰が生き残って誰が死ぬか、誰が救われ誰が救われないのか―――普通の物語なら、その理由や原因になる出来事が積み重なった上でふさわしい結末が訪れるが、死神の語る物語にはそんな因果関係はまったくなかったのだから。
それは、ノンフィクションである『ヒトラーのはじめたゲーム』も同じだ。ジャックが奇跡の生還を果たしたという結末は、ほとんどが偶然や運によってもたらされたものであり、そこにいたるまでの論理的な道筋など見出せない。だから著者は、ただただ事実を羅列していくしかない。
 そんな不条理に支配された世界に、何らかの意味を与えようとする行為が、ゲームだったのではないか。意味が見出せなければ、人間は生きられない。
 ホロコーストが突きつける圧倒的な不条理に、人は打ちのめされてしまう。だから時折、ホロコーストの事実を子どもに伝えることにためらってしまうのだけれど、だからこそ、その不条理に必死で抵抗した人々の物語であるこの二冊を、若い人たちに読んでほしいと思う。(三辺)
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   あとがき大全(68回目) 金原瑞人

1.このところ
 訳書は出ても、あとがきのついていないこともあったりして、先月ここをお休みしたというのに、数えてみると、『ミッドナイターズ3』しか、ここに載せるものがないのだった。
 これから今年中に出る予定の本は『ヒューゴー・カブレの不思議な発明』くらいかな。もし早ければ、『バージャック・ポー』も出るかも知れない。
 来月、12月末はちょっと趣向を変えて、今年みた映画の短評をまとめて載せてみようかなと思っている。

2.ともあれ、ひとつだけのあとがき
   訳者あとがき(『ミッドナイターズ3』)

 オクラホマ州ビクスビーでは、深夜十二時からの一時間、世界が青く染まり、人間は凍りついたように動かなくなる。この「ブルータイム」でも動けるのは、ミッドナイターと呼ばれる五人の若者だけだ。彼らはこれまで、この時間帯に現れる闇の怪物ダークリングと戦ってきた。
 ところが、この第三巻(Blue Moon)では、十二時から始まるはずの「ブルータイム」がいきなり、昼間生じてしまう! この不思議な現象はやがて終わるが、そのうちふたたび生じて……それと当時にダークリングたちが、それも太古のおそろしい連中までが異様に興奮しているらしい。
 やがてわかってきたのは、ブルータイムの亀裂が広がってきていること。そして、不思議な現象が起こるたびに、その亀裂が広がること。それだけでなく、その亀裂のなかでは、ブルータイムであっても、ふつうの人間も凍りつくことなくふつうに動いている……ということは、ダークリングの餌になってしまう。
 五人は、世界の終わりが恐るべき速度で近づいてくるのを感じ、必死にそれをくいとめようとする。
 しかし、これまでと同じで、五人の足並みはなかなかそろわない。そのなかで最も危険な存在がレックス。第二巻で、ダークリングと合体させられたレックスは、なんとかもとにもどるが、それ以来、ダークリングの闇の部分が心に居着いてしまう。レックスは、ときどき激しい衝動にかられてダークリングのようになってしまうのだ。その変化をだれもがおそれていたが、最もおそれていたのはレックス自身だ。
 レックスの昔からの親友メリッサ、「数字」と「数学」の天才少女デス、ブルータイムに空を飛ぶことが大好きで、ブルータイムが二十四時間続けばいいと思っているジョナサン、ブルータイム時にただひとり、強烈な「火」を使うことのできるジェシカ……四人はレックスを、世界を、そして自分たちを救うことができるのか。
 このシリーズは最初からクールでダークな雰囲気と、途方もない想像力に満ちていた。しかし最終巻が、これほどすさまじい物語になるとはだれも予想できなかったに違いない。まさにけたはずれにおもしろい「危険なファンタジー」!
 どうか、心ゆくまま楽しんでほしい。

 なお、第一巻、第二巻に引きつづき、大活躍のリテラルリンクのみなさん、原文とのつきあわせをしてくださった中田香さん、そしていくつかの質問にていねいに答えて下さった作者のウエスターフェルドさんに心からの感謝を!

         二〇〇七年十月一日           金原瑞人
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【絵本】
『トゥートとパドル だからきみがだいすき』(ホリー・ホビー:作 二宮由紀子:訳 BL出版 2007.09 1600円)
 今回は、オパールちゃんのお話です。彼女のクラスに転校生バブルズがやってくるのですが、なんでもかんでもオパールのマネをして出し抜いてしまいます。
 でも、だからといって、懲らしめたりって展開にはなりませんよ。このシリーズですからね。オパールはバブルズをどう受け入れていくのか?
 なんて気持ちのいいラストでしょう!(ひこ)

『どうしてクリスマスには・・・』(二宮由紀子:作 木曽秀夫:絵 文研出版 2007.10 1300円)
 二宮毎年恒例の(?)、クリスマスものです。
 どうしてトナカイがそりを引くのか? と問いかけられると、私たちは、寒さに強いだとか、文化的背景がどうだとか考えてしまいますが、そこを引っかけて二宮は、サンタクロースがトナカイをそりに乗せて引くほど力持ちではないからと、応えます。
 こうして、クリスマスを巡る様々な問いが立てられ、常識的答えが解体されていく。
 参るね、まったく。(ひこ)

『メーガレットとクリスマスのおくりもの』(植田真 あかね書房 2007.11 1500)
 幸せなクリスマスものです。
 クリスマスの前の朝、両親が留守の間に、マーガレットの元にくるみわり人形がやってきます。これから、マーゲレットがサンタクロースになってプレゼントを配るのだと。となかいはもう別のサンタが使っていますから、マーガレットは鳥に乗って空を飛びます。
 彼女が配るプレゼントとは? そして彼女へのプレゼントは?
 画面一杯に絵が語ると言うよりも、言葉の間を絵が浮遊している感じで、それが静けさを醸し出します。植田の画はいつも耳をすませたいですね。
 少し説明的な言葉が多いのは気になりますが、この静かさはいいねえ。(ひこ)

『サンタクロースに会いました』(増田久雄:文 上野紀子:絵 ポプラ社 2007.11 1000円)
 50年前の出来事。
 姉からサンタクロースはいないと言われた8歳のメリーはショックを受けます。話を聞いたおばあちゃんは、メリーに10ドルを与え、あなたが誰かにプレゼントをしなさいと言います。メリーは考えて・・・。
 作者が、若い頃に知り合ったアメリカの女性から去年のクリスマス・メールで聞いたお話をヒントに書かれた物語と、あとがきにあります。この事情を知らないで読むと、何故50年前のアメリカを舞台にしているのかわからず、そこで引っかかってしまいます。この辺り、もう少し工夫をして欲しかったです。(ひこ)

『クリスマス』(バーバラ・クーニー:さく 安藤紀子:やく 長崎出版 2007.11 1500円)
 バーバラ・クーニーが、とても親切にクリスマスの歴史を解説してくれる絵本です。
 キリスト教以前の冬至の祭りなどが、そこに組み込まれたいったことなどが語られていきます。
 キリスト教と縁のない人にも、いや縁のない人こそ、毎年楽しんでいるクリスマスの起こりは興味深いことでしょう。
 バーバラ・クーニーの画と共にお楽しみください。(ひこ)

『まじょのぼうし』(さとうめぐみ:ぶんとえ ハッピィーオウル社 2007.12 1280円)
 さとうの『まじょ』シリーズも4作目となりました。すっかり定着しましたね。うれしい。
 「ほうき」、「くつ」、「マント」ときて、今回は「ぼうし」です。
 まじょが飛んでいると、通りがかったサンタクロースの帽子が、脱げて、まじょの三角帽子に被さります。それに気づかないまじょは、みんなにぼうしをほめられ、腹が立ってしまい、いじわるの魔法をかけます。くまさんが風邪引きのきつねさんに待っていく途中の暖かいスープを氷にって具合にね。でも、熱で食事ものどを通らないきつねさんは、くまさんの持ってきた氷で熱を下げることができます。てな風にして、まじょがしたつもりのいじわるなみんなに感謝されてしまう。
 とても巧い展開ですね。幸せな結末も良い出来ですし。良質なシリーズだといえるでしょう。
 ただ、今回、絵がちょっと描き慣れてしまった感じがしました。(ひこ)

『くまちゃんのふゆまつり』(ほりかわ りまこ:ぶんとえ ハッピィーオウル社 2007.12 1280円)
 くまちゃんシリーズ3作目です。
 くまちゃんは、ままから食事のあとでと言われたのにクッキーを食べようとして、ツボを割ってしまいます。壁をぬっているぱぱは遊んでくれません。
 きょうはふゆまつり。ままもぱぱもその準備で忙しいのです。
 仕方なく外に出たくまちゃんはガールフレンドのくまみちゃんと森へでかけるのですが・・・。
 ストーリーはメリハリがあるわけではなく、ベターっと展開していきます。ほりかわは、物語を起こそうとするより、ごく当たり前の日常を描こうとしています。絵力は相変わらず素敵。(ひこ)

『サンタクロースが二月にやってきた』(今江祥智:文 あべ弘士:絵 文研出版 2007.11 1300円)
 動物園のライオンの家族。2月だから寒いので、暖かいストーブのある部屋の中で過ごしています。そこへサンタが落ちてきて、何故2月にサンタが? と訊くと、トナカイも子どもにプレゼントしたから帰りが遅れているとのこと。さて、ライオンの子どもにもプレゼントをと、でももう持ってないので、外へ飛び出して、雪だるまを作るのですが、なにしろ部屋は暖かいもので・・・。
 いかにも今江らしい、ちょっととぼけた話が展開していきます。この小ネタでくすぐる描き方は、小さな子どもは好きなんですよね。あべも一緒に楽しそうな絵に仕上がっています。(ひこ)

『こんなふうに作られる! 身のまわり69品のできるまで』(ビル&ジム・スレイヴィン:文 ビル・スレイヴィン:絵 福本友美子:訳 玉川大学出版部 2007.11 3800円)
 これは一体どうしてできるのだろう? という疑問や好奇心は、たぶん子ども時代のほうが持っています。生き慣れてくると、なんだかもう、「まあ、あるんだからそれでいいや」ってなってしまう。これは、私がずさんだからかもしれませんが。
 この本は、お菓子からCDまで、考えてみればどうして作られているかは良く知らないまま食べたり使ったりしているものの製造過程を教えてくれます。
 教えてもらったからって、それでどうするってわけでもないのですが、ちょいとした知識が入ってくるのは楽しいものです。
 カナダ発ですから、なんでこれが「身のまわり」? なんてものもあります。例えばお菓子のリコリスね。アニスのお菓子ですから、日本人はあんまし合わない味だと思いますが(私はアムステルダムで食べて、イマイチでした)、彼の地ではとってもポピュラーなお菓子なんですね。それがわかるのも楽しい。(ひこ)

『ザ・ボーン』(南部和也:文 田島征三:絵 アリス館 2007.10 1300円)
 ホネの王様のお誕生日を祝おうと、世界中からホネが集合!
 なもんだから、タコ以外はぐんにゃりして大変。でもホネたちは大喜びでお祝いをします。
 なんとも愉快な話に、田島の画も軽やかに踊っています。こんなステップワークを田島の画はできるのですね。すごい。(ひこ)

『今日からは、あなたの盲導犬』(日野多香子:文 増田勝正:写真 岩崎書店 2007.10 1300円)
 盲導犬歩行指導員の目線に立った写真絵本。視覚障害者の目線、盲導犬の目線ではなく、指導員であるのが、いい角度。というのは犬に対するそれが、あくまで指導する側からなので、盲導犬を使う人、理解を示そうとする人、感動を演出する動物番組よりクールだからです。盲導犬ができるまで、盲導犬にする、といった言葉使いにそれが良く現れています。
 そのおかげで私たちはよりいっそう理解することができます。(ひこ)

『ああ いいきもち』(五味太郎 教育画劇 2007.09 1000円)
 色んな物の、いいきもちを、五味が代弁してくれます。ポカポカで気持ちよく眠っている猫。じゃあつまらない。もう一行、しっぽが一番気持ちよさそうだと付け加えられると、もう確かにそうに違いないのです。
 うまいなあ。(ひこ)

『たったひとつの』(えざき みつる:作 あすなろ書房 2007.11 1600円)
 ずっと穴の中にこもっているおおさんしょううお。カエルから世の中には「シアワセ」っておいしい物があると聞いて、それを捜そうと川を上っていきます。
 ストーリーはシンプル過ぎるので、その腕前はまだわかりませんが、なんたって、えざきの版画の良さよ! 勢いがあって、流れがあって、おかしみがあって、驚きがあって、色遣いは鮮やかでいて不思議に落ち着く。
 絵本はこれが初めてなのだそうですが、勿体ない。
 どんどん描いて欲しいです。(ひこ)

『ひつじがいっぴき』(木坂涼:詩 長谷川義史:絵 フレーベル館 2007.11 1500円)
 木坂の詩と長谷川の画のコラボです。
 木坂の詩は、どうぶつに関するものが集められていますから、当然のことながら長谷川のどうぶつが描かれます。長谷川といえばやっぱり、正面向きの子どもを思い浮かべてしまいますが、今作はどうぶつをたっぷり堪能できます。どうぶつといえばやっぱりあべ弘士を思い浮かべてしまいますので、見比べてみるのも楽しいでしょう。
 木坂の詩はどれもユーモアたっぷりで、それが、長さんのようなナンセンスでもなく、二宮のような外し方でもなく、まあ、どちらも詩ではなく、木坂のが詩だから当然なのですが、言葉のリズムが優先されていて、そのリズムに乗っていくと、意味の方で落とされるのが、面白いですね。表題作を例にすると、「ひつじが いっぴき」、「にひき」、「さんびき」と来たと思ったら、次が「かぜひき」となって足をすくわれるわけです。(ひこ)

『あくま』(谷川俊太郎:詩 和田誠:絵 教育画劇 2007.10 1300円)
 強力コンビ作品ですね。
 ぼくが、昔話に出かけます。魔女に会って、友達になりたいと言われるけれど、だまされないでレーザー銃でやっつける。でも死なない。あくまがやってきて魔女をやっつけ、友達になりたいという。ぼくは昔話から逃げ出すけれど、あくまと友達にならなくて損したかなと思う。
 男の子の心の中の冒険物語ですね。
 男女で分けると、女性嫌悪(恐怖)絵本になりますが、これはちょっと深読みかもしれません。(ひこ)

『はたらきものの トラック、キング』(松本州平:作・絵 徳間書店 2007.10 1600円)
 松本の『ちいさなひこうきフラップ』に続くのりものが主人公の絵本2作目です。
 今回のキングくんは、山に住んでいるくろくまくんに荷物を届けるのですが、吊り橋が落ちていて通れない。そこに親切なおさるたちが出てきて、橋を架けてくれます。
 やっとたどりついたくろくまくんの家ですが、窓から見える影は恐ろしい怪獣みたいで・・・。
 明るい色彩とシンプルに楽しい物語。かわいすぎる絵と物語にはなってはいなくて、ほどよい温かさがいいですね。(ひこ)
 
『レモン 絵本かがやけ詩 かんじることば』(小池昌代:編 村上康成:画 あかね書房 2007。10 1800円)
 小林昌代選の詩に、絵本画家が絵を添える5巻シリーズの一冊です。
 この絵本のテーマは「かんじる」。匂い、色、感触。様々な「かんじる」詩が見開きページに置かれています。
 こうしたアンソロジーは優れた目利きによって集められることによって、読者に新しい見方を提供してくれます。
 「かんじる」の絵が村上で「あそぶ」がスズキコージ。なるほど。(ひこ)

『いつまでも』(アンナ・ピンヤタロ:作 たわらまち:訳 主婦の友社 2007.11 1300円)
 こぐまのオリが母親にききます。おかあさんはずっとぼくのおかあさんなの?
 これは、子どものかわいい甘えなのですが、母親は、それを共依存にせず、母親はずっと母親だし、子どもはずっと子どもだという単純な事実のすばらしさへと広げていきます。
 そこがいいですね。
 母親に名前があったら、もっと良かったですね。(ひこ)

『むしのおんがくがっこう』(青山邦彦:作・絵 あかね書房 2007.10 1400円)
 鳴く虫たちの音楽学校、テントウムシは入れてもらえません。
 ひょんなことから、おもちゃのたいこを手に入れたテントウムシが、その上で飛び跳ねます。その楽しいリズム、に虫たちが集まって大演奏会となり・・・。
 音楽は誰でも楽しめるものだし、楽しんでいいことが伝わります。
 でも、セリフはもう少し減らせると思います。(ひこ)

『イモムシかいぎ』(市居みか:さく・え 2007.10 1500円)
 早朝、丘の上で、いもむしたちの会議が開かれます。
 何の会議かって? そりゃあいもむしだって、情報交換したり、ルールを作ったり、することが色々あるんですよ。
 ってか、そういう風景を思いつく作者に乾杯ですね。(ひこ)

『ムッピ、どうして ないてるの?』(たはらともみ:さく ポプラ社 2007.09 800円)
 ムッピちゃんのシリーズ2作目。
 幼稚園でムッピは一生懸命お絵かきの最中。でも、元気に遊んでいるみんなの勢いが余って、ムッピの赤いクレヨンが折れてしまいます。
 泣き出すムッピ。
 みんなは泣きやんでもらおうとするけれど、ムッピは何故か悲しくなるばかり。
 この辺りの子どもの心の揺れ、リアルです。
 さて、ムッピはどうしたら泣きやむのでしょう。
 子どもが納得する巧いラスト。(ひこ)

『さかさのこもりくんと こふくちゃん』(あきやまただし:さく 教育画劇 2007.09 1000円)
 さかさのこもりくんシリーズ3作目。
 こんどは、女の子を好きになります。
 なりますがあ、例によって反対のことしか言えないものだからあ、
 大丈夫、大丈夫。
 この世界、完全にできてきました。どんどん出してくださいな。(ひこ)

『絵本 もうひとつの日本の歴史』(中尾健次:文 西村繁男:絵 エルくらぶ 2007.10 2500円)
 職人から芸人まで、歴史の前面には出てこない様々な職業の人々に焦点を当てて、描いていきます。公史だけでは浮かび上がらない民衆史。
 見開き画面に同じ地域を設定し、古代から現代までを見せていくので、歴史のつながりと変化がよくわかります。(ひこ)

『あいうえおとaiueoがあいうえお』(はせみつこ:作 山村浩二:絵 小学館 2007.10 1400円)
 パフォーマー(ことばパフォーマンス)のはせみつこによる、母音のイメージを展開した絵本。
 あいうえおaiueoから始まって、んnまで、母音を含む子音たちが、はせのイメージの元、飛びはね、広がっていく様を山村が絵にしていきます。
「かきくけこkakikukekoはかたいなあ かっ きく けっこ かきくけこ かか きき くく けこ ka ki ku ke ko かちかち こちこち こけくきか かきん こん かーん けっとばされた!」という言葉だけでは、かなりベタなイメージなのですが、それを絵にしていくことで膨らんできます。言葉そのものがおもしろいのだという風に。(ひこ)

『和の行事えほん2 秋と冬の巻』(高野紀子:作 あすなろ書房 2007.10 1600円)
 春と夏に続き、日本の四季の折々をわかりやすく解説しています。失われていくものも、まだ健在のものもありますが、すべてを知っておく必要はないのですけれど、だいたいは知っておくと、子どもたちのカルチャーアイデンティティの役に立つでしょう。へたなナショナリズムに飛びついてしまわないためにも。(ひこ)

『図書館へいこう! 全3巻』(赤木かん子:文 すがわらけいこ:絵 ポプラ社 2007.07 4500円)
 図書館はどんなところで、なにができるか。絵本でわかりやすく解説しています。
 図書館に関する入門の入門書。これで、図書館慣れしていない子どもに、敷居を低くしてあげるのだ。(ひこ)

『サカサマン』(海老沢航平:ぶん 本信公久:え くもん出版 2007.09 1200円)
 ちょっと気弱でいくじのない「ぼく」の体に入り込んだのはサカサマン。思っていることとなんでもサカサに言ってしまうのだ。
 好きな女の子にいじわるしてしまったり、恐い男の子と喧嘩をしたり。サカサマンなんて嫌いだ。
 アイデンティティの揺れから、一歩成長へと、スタンダードな展開ですが巧くまとまっています。
 著者は小学6年生とのこと。なかなかやりますなあ。(ひこ)

『三まいのおふだ』(小澤俊夫:再話 かないだえつこ:絵 くもん出版 2007.07 1600円)
 小澤による日本昔話の絵本化。ちょっと赤ずきんと似ていておもしろいですね。
 かないだえつこの版画は、素朴に恐いです。昔話と良く合っていて、この組み合わせをセッティングした編集の勝利です。(ひこ)

『ふたりは なかよし』(イローナ・ロジャース:さく・え かどのえいこ:やく 2007.10 1000円)
 大きいネズミのネズおじさんは、ハニーちゃんのベビーシッターです。毎日毎日、ハニーちゃんと仲良く遊んでくれます。
 そんな日々を描いた、かわいい絵本。
 画のタッチといい、ストーリーといい、五〇年代の絵本のようですが2005年作。古びていると言うのではありません。却って新しい感じ。聖像画家と知って納得。
 ネズおばさんではなくネズおじさんなのが現代的かな。
 続編の『ふたりはクリスマスで』もホカホカ度は高いですよ。(ひこ)

『おつきさまとあそんだよる』(神山ますみ 講談社 2007.09 1300円)
 友達と別れた帰り道、こぐまはおつきさまと一緒に遊びます。
 おつきさまは、家までずっとついてきてくれて、暖炉から部屋の中を照らしてくれて・・・。
 確かに、月はずっとついてきてくれるように思った記憶があります。
 心地いい絵本ですよ。(ひこ)

『おしりのサーカス』(さかざきちはる ハッピーオウル社 2007.09 1280円)
 動物のおしりだけが見えていて、誰だ? ねずみ。ねずみを乗っけている動物のおしり、誰だ? とゾウまでおしりを向けたままのどうぶつたちがどんどん乗っけていきます。
 ただそれだけの絵本です。
 「おしり」、そして「繰り返し」。子どもが喜びそうな設定がそろっています。色合いもアラフルでわかりやすいです。
 中はこれでいいと思うのですが、表紙はもう少しつかめるデザインがあるのでは?(ひこ)

『カッパのいちにち』(あぐまこうじ:さく くもん出版 2007.06 800円)
 カッパの子どもの一日が描かれているのですが、まあ、よく遊ぶわ、この子ガッパ。
 でも、子どもってこうなんですよね。私は疲れるから付き合いたくないですが、この絵本を読んでもらう子どもは、子ガッパと遊んでいる気分になるのでしょう。(ひこ)

『ギネス世界記録2008』(ポプラ社 2007.11 1800円)
 毎年恒例のギネス、二〇〇八年版です。
 本当にすごい記録からオバカなものまで、満載。人間のでかさから小ささまでよくわかります。ギネス的発想って、すごくスノッブなわけなんですが、そのことにたっぷり浸ってみるのも、いいものです。これはがんばって出版し続けて欲しい一冊。(ひこ)

『MIMIKO それでいいんだよ。』(木村桂子:絵・文 小峰書店 2007.07 1200円)
 「家庭の事情」で、パパはニューヨークに住んでいます。この絵本はそんなMIMIKOがママとニューヨークに行って出会う、感じる、考える、一こま一こまを描いています。とってもキュートで、ちょっとだけ切なくて、でも元気。
 最初、言葉で書かれていることと、絵で描かれていることが重なりすぎているのが気になったのですが、読み返すと、言葉と絵が重なることで活き活きしてくるのがわかりました。(ひこ)

『はすいけのぽん』(古舘綾子:作 山口マオ:絵 岩崎書店 2007.07 1300円)
 古舘のリズミカルな言葉が、蓮池に集まる様々な生き物を次々と見せていってくれます。
 流れていく時間が、やがて夏を連れてきて、はすに花がポン!
 山口の版画はいい味を出していますが、古舘のリズムに比べておとなしめです。(ひこ)

『ハコちゃんのはこ』(竹下文子:作 前田マリ:絵 岩崎書店 2007.10 1300円)
 今、鍋ねこが話題ですが、これは箱が大好きな箱ねこのお話。
 狭いところをねこは好みますから、色んな所に潜り込むねこの姿は、活き活きしています。前田の絵は、左向きの姿がほとんどで、右にページを繰っていくとき、動きが止まります。そのことで、ページごとのねこの姿が印象づけられます。
 最後、家もハコちゃんからすれば、安心できる箱かもしれないと、視線を広げていきますが、これは勿体なかった。それは人間の考えですからね。(ひこ)

『まじょまつりにいこう』(せなけいこ ポプラ社 2007.08 1200円)
 せなのうさぎさん絵本です。
 うさぎは、魔女の祭りに参加したいのですが、猫でないとだめなので、猫の格好をして出かけます。だけど見つかってさあ大変。すると月からうさぎが助けにやってきて・・・。
 あらすじだけ書くと、なんだかな〜と思われる展開でしょうが、せなの絵とともに語られると、なんだかほわほわ楽しんでしまえるから不思議。
 で、実は本当はなんだかな〜ではなくて、いや、なんだかな〜なんですが、それを楽しそうに書けるから、せなはすごいのです。(ひこ)

『ねこのことわざえほん』(高橋和枝 ハッピーオウル社 2007.06 1300円)
 あはは。
 誰もが良く知っていることわざの「ネコの場合」編です。
「犬も歩けば棒に当たる」、「猫は歩けど猫に当たらず」といった具合です。
 猫を飼ったことのある人にはいちいち、その通りといいたくなるものばかりです。(ひこ)

『夏の日』『秋の日』(今森光彦 アリス館 2007.06 2007.09 1400円)
 気持ちのいい写真絵本です。
 今森が愛する里山の四季を切り取った写真に、言葉が添えてあります。
 しごく単純に、生きているとか呼吸しているということの心地よさを感じることができます。
 音も香りも色彩も、この絵本を見るそれぞれが、これまで自分が生きてきた中で培ってきた感性で眺めてもいいんだよと言ってくれています。
 これ以上ないシンプルな装丁も、手持ち感のいいサイズも、グッジョブです。(ひこ)

『虫のくる宿』(森上信夫:写真・文 アリス館 2007.09 1500円)
 窓の明かりに集まってくる虫たち。その一匹一匹に興味を持ち、おもしろく感じている森上の気持ちが良く伝わる写真絵本です。
 子どもの頃、確かにこんな風にドキドキしましたっけ。
 ただ、一冊の絵本として、構図や、文字の置き方など、もう少し統一感や流れが欲しい。(ひこ)

【創作】
『ゴーストハウス』(クリフ・マクニッシュ:作 金原瑞人・松山美保:訳 理論社 2007.05 1400円)
 来ました。マクニッシュの新作です。今回は幽霊物語。
 パパを心臓発作で亡くしたジャックはママのセアラと共に新しい家に引っ越します。彼はぜんそくを抱えており、吸入器はいつも手放せません。
 新しく住む家には、アン、オリバー、チャーリー、グウィネス、四人の子どもの幽霊がいます。本来、亡くなると「いとしい人」が現れて、天国へと導いてくれるのですが、彼らは召されることなく、この世界にとどまっています(何故かは、ネタバレなので書きませんが)。ジャックには彼らの姿を見る能力があり、話もできます。でも、セアラは信じてはくれません。そうこうするうちに、もう一人いる女の幽霊がジャックに近づいてきます。娘を先に亡くし、いい母親をやりたがっているその女は、ジャックに執心し・・・。
 おお、恐い。
 マクニッシュですから、親子、大人と子どもの対立といったベースはこれまでの作品と変わりません。
 しかし、本当に想像力がどこに展開していくか読めない、いい作家ですなあ。(ひこ)

『タイムソルジャー REX1』(キャスリーン・デューイ:文 MON:訳 岩崎書店 2007.06 900円)
 写真とCGを合成して作り出した画面で見せていく、子ども達の冒険シリーズです。
 ストーリーはそんなにたいしたことはないのですが、コテコテの、恐がり表情写真たちが、なんとも言えないチープさと漂わせて、迫力がでてます。
 ああ、そうだ。要するにごっこ遊びのビジュアル化なんですね、これ。子どもが好きなはずだ。(ひこ)

『鏡の中のアンジェリカ』(フランチェスコ・コスタ:作 高畠恵美子:訳 文研出版 2007.04 1300円)
 イタリア発の児童文学。
 ジャコモ12才は、別居中のパパと過ごすために海辺の町へやってきます。パパは恋人とその娘イレーネと住んでいるのですが、このイレーネ最初はなかなかいじわるで、その描き具合が良いです。
 さて、誕生日の日、ジャコモは鏡に映った姿に驚きます。そこには自分ではなく見知らぬ女の子が映っていたのです。彼女は誰?
 イレーネとともにその謎を解いていくのが物語の中軸なのですが、親子家族の問題も描かれていて、ほどよいエンタメです。(ひこ)

『本の妖精リブロン』(末吉暁子:作 東逸子:絵 あかね書房 2007.10 1100円)
 本と読書への愛情に満ちた小さな物語です。
 転校生のアミは、新しい学校の図書室の大きさにびっくり。本好きですから大喜びなのですが、なんかみんなは本を読んでいないみたい。そこに現れたのは本の妖精リブロン。次の満月の夜までに、アミが20冊の本を読んでくれたら、しおりにならなくてすむと言います。そして、助かったらアミに素敵なプレゼントをすると約束。
 簡単だと思った20冊クリアですが、新しい学校の新しい友達とのことなどで、なかなか進まず、結構大変。でもなんとかクリアして、ご褒美は物語の中への招待でした。アンデルセンの作品へね。
 これ、楽しいんで、シリーズ化希望します。(ひこ)

『ルーディーボール』(斎藤洋 講談社 2007.09 2200円)
 斎藤洋、作家生活20周年記念ファンタジー巨編の始まりです。
 領内で、ゲットーのように閉ざされている村。村人は外に出ると、法の適用されない非人とされ、その代わり村の中には領内の法は及ばない。しかしそこは近道でもあるので、多くの商人たちの馬車が通る。主人公達はそれを襲って生業をたてていた。といっても生活費程度のものを稼ぐだけだったのだが、ある日襲った馬車にはとてつもない量の金貨が! 奪うには奪ったが、マネーロンダリングをしなければ使えない。主人公達は、彼らに法の適用がされない村外へと、身分を偽って侵入するが・・・。
 『忍者武芸帳』風のRPGとでも言いましょうか、様々な謎と冒険に溢れています。さすが斎藤洋です。
 この第一巻だけを読んだ限りでは、会話などは、その軽さがラノベと似ています。もちろん、それが悪いわけではないし、ハードカバーのラノベがあってもいいのですが、もう少し裏のある書き方が斎藤はできると思うのですが?(ひこ)

『ぼく、カギをのんじゃった!』(ジャック・ギャントス作 前沢明枝:訳 徳間書店 2007.08 1400円)
 ジョーイは教室でじっとしていられません。長い間イスに座っていられないし、教室を飛び出してしまうし、答えを知っていなくても先生の質問に手をあげて答えようとします。それは親の仕付けがちゃんとできていないということではなくて、病気だからなのですが、周りにとってはとても大変な子どもです。
 でも、じゃあ当の本人は?
「考えて、実行する。たぶんふつうの人たちは、みんなそうしてるんだと思う。でもぼくは、たいていそうはできない」。
 そんな状態がずっと続いていると想像してみてください。ジョーイの大変さがよくわかります。彼は自分をコントロールできることを願っています。なかなかうまくはいかないんですけどね。
 もし周りにこんな子がいたら、どうぞ見守ってあげてください。
 物語の終わり近くで、ジョーイの症状に効きそうな薬が見つかります。でも、食事も含めた生活改善も必要。
 ジョーイの戦いはこれからです。(ひこ)(読売新聞)

【評論】
『戦前の少年犯罪』(管賀江留郎 築地書館 2007.10 2100円)
 近頃の子どもは殺人を犯す。凶悪になっている。といった言説に、ちょっと待って! という資料です。著者が戦前の新聞記事から見つけ出してきた少年犯罪のデータが載っています。
 これを読むと、子どもの凶悪犯罪が増えているわけではないのがよくわかります。猟奇的な殺人も、ささいなけんかでの殺人も戦前にも多くあります。
 おふざけペンネームの著者は分析はしていません。ちょっと調べれば簡単にわかるこれらの事実を踏まえようよと言っているだけです。殺人などを扱っているわりには軽い口調なのに反発も生じるでしょうが、集めたアンプルの量には感心しますよ。
 教育再生会議の委員は必読でしょう。(ひこ)