2006.10.25
Vol.106

       

【絵本】
『ちびうさ にいちゃん!』(ハリー・ホース:作 千葉茂樹:訳 光村教育図書 2006/2006.09 1400円)
 シリーズ4作目。一作目でまいごになって、2作目でがっこうへ行き、3作目で家出をしたちびうさくんも、とうとうおにいちゃんになります。おにいちゃんだから、はりきって弟妹の世話をするけれど、赤ちゃんの面倒をみるのは大変だったり、親が自分より下の子たちを好きなのではと思ったり、兄・姉物におなじみの展開を見せます。
 じゃ退屈かいうととんでもない。ちびうさの一生懸命さがゆっくりと伝わってきます。
 全体の色の暖かさが物語ととてもフィットしています。(hico)

『ぼく、きらきらをみつけたよ』(ジョナサン・エメット:文 ヴァネッサ・キャバン:絵 おびかゆうこ:訳 徳間書店 2006/2006.10 1500円)
 木から落ちてきたキラキラ光る物。魔法の宝物だ〜! モグラは大喜びで抱えながら家に帰るのですが、だんだん溶けて消えてしまう。
 その招待はつららなのですが、もぐらにとっての新しい発見が、冬のきらめきの中でワクワクと伝わってきます。
 『ばく、おつきさまがほしいんだ』に続くシリーズ2作目です。(hico)

『パラパラ山のおばけ』(ライマー:作・絵 中由美子:訳 岩崎書店 2003/2006.09 1300円)
 ブタのルルが山の上から転がり落ちてきます。おばけに出会ったんだって。大慌てで、おばけ対策をする村民たち。でも、真実は?
 ユーモアストーリーです。絵のそこここに遊びがあるのも好感。「台湾の絵本だ」とか言わなくても、そのまま楽しい絵本です。(hico)

『図説 恐竜の時代』(ティム・ヘインズ:著 池田比佐子:訳 岩崎書店 1999/2006.10 8500円)
 BBCで制作した恐竜特集を元にした、図鑑。
 って書けば、素材の2次使用物かよ。と思う人がいるかもしれませんが、んなことないです。CGや写真は、TV版のロケ現場で撮影されていますが、気合い入りまくりです。恐竜時代という、謎に満ち、想像をかき立て、子どもが大好きな素材を、活き活きと伝えるための気合いです。なにより、ドキドキさせてくれますよ。
 解説もたっぷりで、わかりやすく、良いです。(hico)

『マーブルひめの りっぱなおしろ』(長谷川直子 ほるぷ出版 2006.09 1300)
 マーブル姫とコーラル王子は結婚のお約束。マーブルひめはお菓子が大好き。コーラル王子の国はお菓子屋さんがいっぱい。マーブル姫、まずはどんなお店があるのかと待ち娘に変身して、コーラル王子の国へ行きます。ところがお店は全部お休み。なんで?
 物語はこうなって欲しいという場所に落ち着きます。そして最後のページには、お城がたてられるペーパークラフトが!
 「おうちの絵本シリーズ」開幕です。楽しそうでしょ。(hico)

『いがぐり星人 グリたろう』(大島妙子 あかね書房 2006.09 1300円)
 ある日、家の庭の柿の木で下記を取っていたらなぜか栗のいがが!
 取って、割ると、小さな生き物。ギリたろうと名付けられたそいつはすっかり家族の人気者に! でも、おじいちゃんが買ってきた甘栗を見るとしょんぼり。おとうさんはいがぐり星人が乗ってきたいがを修理してあげつことに。「ぼく」の心はちょっと複雑。
 かぐや姫、ETなわけですが、それを『ぼくんち』シリーズの大島がどう料理するかが見どころ。
 別れの悲しさは愛しさそのものであること。そこを描いています。(hico)

【創作】
『ツー・ステップス』(梨屋アリエ作、菅野由貴子・絵、岩崎書店、1200円)
 小学校5年生のオノザがいる仲よしグループでは、場の雰囲気が読めるかどうかが重要です。ある日アイアイが、ブランド物のマフラーをしてきます。でもそれはにせもの。何日かしてオノザは、やっと手に入れた本物をしてきます。するとグループから浮いてしまう。自分も本物を買ってもらっていたコッコはオノザに、言います。「アイアイのがにせものだってばれたらかわいそうだから、学校には持っていかないのに……、オノザって残酷だよね」
 これはどう考えてもヘンな発想。なぜそうなってしまうのか?
 場の雰囲気を読むとは、周りの気持ちや気分を判断するということ。でも時としてそれは、相手を気遣うためではなく、相手を傷つけたら自分も傷つけられるのではないかという恐れから行われてしまいます。そうなると、お互いに自分の本当の気持ちを言うことがどんどん難しくなっていくのです。悪循環。
 オノザはここからどう抜け出すのか? 読んで確かめてください。(hico)(2006年10月3日 読売新聞)

【評論】
『大草原のバラ』書評 
 『大きな森の小さな家』(以下「小さな家」)の作者がローラ・インガルス・ワイルダーだとわかる読者なら、娘ローズがこのシリーズ誕生に積極的に関与していたことも、承知しているだろう。だがローラの娘ローズ(一八八六−一九六八)は、二十世紀前半のアメリカで、それまで男性の領域だった仕事へ進出し、存在感を示した女性である。向上心や冒険心が強かった彼女の人生に焦点をあてた『大草原のバラ』は、母ローラのことを抜きにしても惹きつけられる物語だ。なお谷口由美子氏のあとがきによると、これは同氏がウィリアム・アンダーソンと共同で作ったもので、原書がないという。全体に読みやすく、数々の写真と引用資料を含め、構成も効果的である。
 アンダーソンはローズの養子で、『大草原のローラ』をはじめ多くの著書があるほか、ローズを主人公にした物語『ロッキーリッジの小さな家』(「新大草原の小さな家」シリーズ)も執筆している。同シリーズ最終巻はローズが高校入学のために親元を離れる時点まで。当然ながら、本書はそれ以降に重点が置かれている。
 ローズはジレット・レインと結婚後もレポーターや物書きとして仕事を続け、徐々に活躍の場を増やした。アクロバット飛行家の聞き書きや各種の特集記事が注目されたほか、ブリティン紙に連載後単行本になった自動車王『ヘンリー・フォード物語』や、作家ジャック・ロンドンの伝記などで、花形記者となる。また、アメリカ赤十字の広報として働いたことがきっかけで一九二〇年代にはヨーロッパを旅行し、それを記事にした。短編「イノセンス」では一九二二年のO・ヘンリー賞を受賞し、多くの作家のゴーストライターを務めてもいたという。後年、七十八歳でベトナム戦争の状況を雑誌に書くために取材に行くなど、その冒険心と行動力は並外れている。母ローラは開拓者の娘として十九世紀のアメリカ各地を旅した経験を作品にした。娘ローズもまた二〇世紀の各地を広く旅し、ジャーナリスト・作家としての立派な業績を残していたのだ。
 本書が明かすローズの徹底したアメリカ的個人主義ぶりや思想家としての活動もまた興味深い。アンダーソンによると、アメリカの出版史上でもっとも成功した記事とされるのが、サタデイ・イブニング・ポスト誌掲載の「クリードウ(信条)」(一九三六年)だという。日本ではローズの本はローラの両親をモデルにした『大草原物語』しか紹介されていない。だがローズは父アルマンゾをモデルにした『自由の土地』も著し、名声を博していた。こうした一連の過程から改めて見えてくるのは、ローラとローズがアメリカニズムを共通基盤としていたことだ。言い換えれば「小さな家」シリーズは、ローラの時代に生きていた価値観を賛美する意図のもと、二人が生みだしたものでもあった。
 ローズはまた、政府の政策への反発から一九四四年には所得税支払いを拒否して新聞の見出しを賑わせた。大戦中配給手帖なしで暮らせたのも、自宅の菜園で栽培した野菜をはじめ、食料の備蓄があり、節約して生きる術を熟知していたからに他ならない。さらに広い世界を活躍の場としたにもかかわらず、ローズはたびたび家作りに情熱を傾けている。ここで思い出すのはローラの母キャサリンが、引越しのたびに「居心地の良い文化的な空間」にこだわったことだ。ローズの家へのこだわりも、その変形だろうか。若くして親元を離れ、広く世界に羽ばたいたローズも、インガルス家やワイルダー家という土台には抗えなかったのかもしれない。西村醇子(にしむら・じゅんこ)
『週刊読書人』2006年8月25日号5面掲載