No.68     2003.08.25日号

       

【絵本】
『Bad Cat』(トレーシー=リ・マグナス=ケリー:さく 忌野清志郎:やく ブロンズ社 2003/2003.06 1500円)
 大都会で悪事(悪さ、かな?)を働くバッドキャット。お店の壁に落書き。でも、なんてすてきな店になったことだろう! という風にバッドキャットがやらかす悪さが、どれもこれも、人を暖かく、幸せにしてしまう。
 ファンキィーな色と躍動する画が、都会の喧噪を良く伝えています。
 バッドキャットの悪さ振りによって、ご機嫌になれます。(hico)

『つきよのキャベツくん』(長新太:作 文研出版 2003 1200円)
 シリーズ5作目。
 つきよにキャベツくんが歩いていたら、遠くから友達のブタヤマさんがやってくる、と思ったら、トンカツくんだった・・・・。トンカツにキャベツ・・・・・。
 ああ、もうだめ。このアホくささにはかないません。しかもそこにブタヤマくんがきてしまったものだから、ブタとトンカツの対面・・・・。もう、いや。
 たまらんですな〜。
 素晴らしいいい!(hico)

『うまれたてのいろ』(ほんま まゆみ:さく みち いずみ:え 小峰書店 2003 1300円)
 例えばヒヨコは生まれたての黄色。芽は生まれたてのきみどり。といった風に、
いろ」を「うまれたて」と組み合わせることで、色の美しさを伝えようとしています。
 アイデアはとてもいいのですが、自然界の色と画の色とは違うわけで、そこのところをもう一工夫欲しい。(hico)

『どこへいったの、ブルーカンガルー?』(エマ・チチェスター:さく わかまつ まゆみ:やく 評論社 2000/2003 1300円)
 リリーが大好きなぬいぐるみは青いカンガルー。で、どこへでも連れて行くけど、リリーはすぐに他のことに夢中になって、ぬいぐるみを置き忘れて、大騒ぎになる。
 可笑しいのは、そんなことが続くものだから、リリーがお出かけの時、ついにブルーカンガルーは、隠れてしまう。
 画は格別特徴立てるタッチではありませんが、色遣いのちょっとチープでハデな様は、不思議な印象を与えます。まずなんたって、青いカンガルーのぬいぐるになんて考えるのだらか。(hico)

『きょうりゅうたちの おやすみなさい』(ジェイン・ヨーレン:文 マーク・ティーグ:絵 なかがわちひろ:訳 小峰書店 20002003.06.25 1400円)
 物語、発想も画もよいです。
 おとうさんとおかあさんが子どもたちに、もう寝なさいというのの繰り返しですが、ベッドの上の子どもはみんな、様々なきょうりゅう。これがまた良く描けています。
 きょうりゅう=子どもと思っていいわけですが、子どもはこれ、喜ぶでしょうね。(hico)

『ねむる ねこざかな』(わたなべ ゆういち:作・絵 フレーベル館 2003 1000円)
 仲良しのねことさかなの物語、ってだけで、すでにおもしろいのですが、さかなの中にねこが入りとねこざかなになって、海を泳ぐし、逆にねこの中にさかなが入って、さかなねこにもなる。
 ナンセンスにドラマがミックスされて、ほどよく仕上がっています。
 ちょっとした仕掛け絵本でもあります。(hico)

『レアの星』(パトリック・ジルソン:文、クロード・K・デュポア:絵、くもん出版 2002/2003 1300円)
 小児がんにかかったレアと、その友達ロビンを描いた絵本。
 彼らは、彼女が重い病であることを教えられる。
 子どもだからと隠さず、ちゃんと説明すること。
 彼らがどう向き合って行ったかを静かに伝えています。(hico)

『ステラもりへいく』(メアリー=ルイーズ・ゲイ:作 江国香織:訳 光村教育図書
2002/2003.07 1400円)
 シリーズ第一作。
 少しチャールズ・シュルツをイメージさせる画ですが、そこにステラの赤毛があることで、世界は変わります。
 ステラと弟のサムの愉快な森への冒険旅行。ストーリーはこの二人の掛け合いで進んでいきます。そのノリの良さをお楽しみに。
 画も、隅々に生き物をさりげなく配し、この二人を見守っているかのようです。(hico)

『たこやはちべえ りゅうぐうたび』(さねとうあきら:ぶん スズキコージ:え 教育画劇 2003 1200円)
『もくべえの うなぎのぼり』(さねとうあきら:ぶん いのうえようすけ 教育画劇 2003 1200円)
 日本の民話シリーズ最新作2冊。さねとうの文にスズキコージといのうえようすけが画を提供する豪華な組合わせ。
 どちらもが、あほくさい落語話で、笑えます。
 数が揃ってくると、おもしろいひとかたまりの世界ができるでしょう。(hico)

『そばだんご』(いしだとしこ:ぶん みやじまともみ:え アスラン書房 2003 760円)
 おいしいそばだんごを食べるために、ねずみが、いたちをだまして、そばを作らせる。
 民話調の物語に、みやじまともみは、繰るページごとにねずみといたちを効果的に配置し、飽きさせません。
 二匹の表情も豊か。
 ペンによるクリアな輪郭は、物語の素朴さとは違い、そのズレも楽しい。
 この器用さは、ここで収まらずに、次の段階に行って欲しい期待も残る。(hico)

『しろくまのペーター』(にしかわおさむ 教育画劇 2003.07 1000円)
 南の島の写真を見た、しろくまの子どもペーターは、氷に乗って南に向かうが、氷が段々溶けてきて・・・。
 にしかわの画は、「刺激」からは遠いけれど、ホッとさせる。物語もそうで、はみ出すこともなく、楽しませ、幸せな結末に着地する。
 これは確信的に、時代を超えた幼児絵本のありようを主張しているのです。色遣いなんかもね。(hico)

『わんぱくゴリラのモモタロウ』(わしおとしこ:作 くもん出版 2003 1300円)
 動物園は、絶滅危惧種を増やす努力をしていますが、この写真絵本のゴリラもその一種。
 上野動物園、「ゴリラの森」で生まれたモモタロウの成長の日々を見ることができます。
「そうか、尻の毛が白いのがまだ子どもの印で、大人たちは優しく接するのか」とか、色々知るのです。
 こういう絵本は別にゴリラが好きでなくとも、チラチラめくって読み終えたとき、ゴリラという生き物のことをほんの少し身近に感じることができればいいのです。やっぱりまだゴリラがきらいだとしても。(hico)

『ありがとう ともだち』(内田麟太郎:作 降矢なな:絵 偕成社 2003 1000円)
 「おれたち、ともだち!」シリーズ最新作。はじめての「おとまり」で緊張して眠れないキツナにオオカミは、大きな海と、そこで釣れた(ホントカな?)でかいカジキの話を。
 で、さっそく海釣りへ。
 どうなるかは読んでのお楽しみとして、「ともだち」をキーワードに、良い落としどころで、絵本は終わります。
 絵本の中に大きな「ともだち」心を詰め込んで。(hico)

『いたずら王子バートラム』(アーノルド・ローベル:作 ゆもとかずみ:やく 1963/2003.06 1200円)
 クラッシク絵本です。ローベルの魅力満載。
 子憎たらしいバートラムですが、どこか憎めない表情でもあります。
 魔女にいたずらしたため、小さなドラゴンに変えられたバートラム・・・・。
 子どもにとっていたずらをするバートラムは最高! でしょうね。(hico)

『いたずらかまきり キリリ』(徳田之久:さく 童心社 2003 800円)
 「とびだす 虫のえほん」シリーズ。
 かまきりの子どもが、親ののうことをきかないで、危ないところで遊びっぱなし。やがて、アリに襲われ危機一髪!
 ちょっとした仕掛けもある、小型絵本。(hico)

『たまごのカーラ』(風木一人:文 あべ弘士:絵 小峰書店 2003.06.18 1300円)
 中身を守っている卵のカラ。生まれたのはトカゲ、でもお礼も言わずにどこかに去った。怒ってカラは手足が生えたカーラに変身。周り、にただのカラじゃないかとか言われながらも、カーラだから気にしない。口でも手でもけんかは強くなるカーラ。
 役目を終えたはずの卵のカラが、カーラとなることで新しく生きていく様が、とてもいいです。最後のエピソードも最高だし。(hico)

『ビバリー としょかんへいく』(アレクサンダー・スタッドラー:作 まえざわ あきえ:訳 文化出版局 2002/2003.06.15 1400円)
 ビバリーは自分の図書カードをつくってもらって、大喜び。さっそく恐竜の本を借ります。夢中で読むビバリー。気付くと返すのが一日遅れてた。クラスのみんなは、牢屋に入るだのいろいろいうので・・・。
 本を借りる喜びと、読みのそれと、借り出し期間を超えたことへの不安と恐怖。それが良く出ています。ほっとする結末は、図書館員なら嬉しい事この上なし。(hico)

『これはジャックのたてた いえ』(シムズ・タバック:作 木坂涼:訳 フレーベル館 2002/2003.05 1300円)
 ページを繰るごとに、言葉がどんどんつながっていきます。で、それに逢わせて場面もどんどんゴチャゴチャ状態。
 それが気持ちいいし、おかしい。
 元ネタはヘブライ語の遊び歌だそうです。
 ゴチャゴチャ度をお楽しみあれ。(hico)

『ねこねこ 10ぴきのねこ』(メーティン・レーマン:さく はしかわなつよ:訳 童話館 1981/2003 1200円)
 ネコ好きのための絵本。
 個性的なネコたちが次々と。
 絵本としての作りは、いいセンスです。
 でもやっぱり、ネコ好きのための絵本。それ以上でも以下でもなし。
 私はネコ好きなので、嬉しい。(hico)

『おひさまがおかの こどもたち』(エルサ・ベスコフ:作 石井登志子:訳 徳間書店 1898/2003.05 1400円)
 ベスコフのデビュー第2作。
 北欧の一年を巡っての、子どもたちの情景。
 素朴であることより何より、子どもが子どもとして何の迷いもなく生きていた頃の姿。服装は今よりずっと窮屈そうだし、家庭教師の怖そうな表情もありますが、外遊びからお手伝いまで、すべてが毎日毎日のリズムに組み込まれている様は、今の子どもには一時の安らぎになるでしょう。
 というより、まず、見慣れない情景に、新しさを感じるかも。(hico)

『ようこそうみへ』(中川ひろたか:文 村上康成:絵 童心社 2003 1300円)
 おっちゃん、おばちゃんと8人の子どもたちが、海遊びに。そんなとてもシンプルなスタートから、話はテンポよくうねっていき、雲の上にまで乗っかってしまいます。理屈なしに自然にそんな展開ができているのは、文と画のタッグの呼吸があっているからでしょう。
 夏は楽しい。(hico)

『赤ちゃんのための 色の絵本』(桑原伸之:さく あすなろ書房 2003 1200円)
 タイトルそのまんまの絵本です。
 様々な色の道具から、その色と同じ動物や物が出てくることの繰り返し。言葉はリズムよく、ごそごそだのふわふわだのが使われていて、音の楽しさと画と色のハーモニー。
 ただ、「赤ちゃんのための」は、どうか? もちろんそうなのだが、余分。(hico)

『きらきら ひりひり』(薫くみこ:作 川上越子:絵 ポプラ社 2003 1200円)
 小学2年生の女の子。海辺の親戚の家に行きますが、弟の具合が悪くなって、帰ることに。女の子は心配するお母さんに、一人で残る決心を告げます。
 そこから彼女の海辺での夏休みはスタートするのですが、親がいなくて、さみしくないのかな?
 さみしさと自由の楽しさが入り交じる一週間。物語は形通りと言えますが、川上の画が、夏をちゃんと伝えています(hico)

『ネギでちゅ』(船崎克彦:作・絵 2003 ポプラ社)
 茶トラネコのネギ。丸々とタマネギみたいだから。
 で、ぼくはネズミを捕るのは上手だが、可哀想だからやらないし、けんかも得意だけどつかれるからやらない。結局、おばあちゃんの膝で眠るのがすき。
 色々言い訳するネギですが、そこが楽しいわけ。(hico)

【創作】
『ボーイズドリーム』(アレックス・シアラー:作 鈴木彩繊:訳 PHP 1996/2003 1044円 )
 『青空のむこう』『魔法があるなら』の作者の新訳。っても、こっちの方が、古いのですが。
 一歳しか違わない兄弟のテリー(十一歳)とウィルモット(十歳)。だからいつも自分の優位度を高めようと、喧嘩ががたえません。
 でもたった一歳違いとは言え、テリーの方が優位。しかも頭の切れがいいし、ウィルモットはどっちかというと、のんびり屋で、人の言うことを信じやすい。
 ウィルモットは、世界記録本を跳んでいて、自分も何かで世界一になろうと決心。まず最初にやろうとするのが、100メートル走の世界新を破るというものだから、彼のトンチンカンぶりはそうとうなもの。
 さてようやく考え出したのは、その本には書かれていないジャンルに挑戦すれば、世界一になれる、です・・・。で、ポテトチップス早食い記録は掲載されていないのに気付き、こいつに挑戦しようとするのですが、手伝ってやろうとテリーが申し入れ、当然それは悪巧みであり・・・。
 本当に器用な作家。
 どのジャンルもこなせそう。
 今回のが一番シンプルなので、作者のユーモア振りを知るには最適かな。オチもそこそこうまいし。(hico)

『ローワンと白い魔物』(エミリー・ロッダ:作 さくまゆみこ:訳 あすなろ書房 2003/2003 1500円)
 シリーズ5作目。厚くなりました。っても350ページですから近頃じゃたいしたことありませんが。でも、シリーズってどんどん長くなるのね。
 長くなった理由は、もちろんあって、今回リンの村に最大の危機が訪れます。気温はどんどん下がり、家畜の草も、作物もなにもかもが採れなくなり、家畜も村人も死を目前にします。しかたなく村人は港町に移住し、助けてもらうことに。それもたどり着ければですが。一方、予言者シバに言われ、その原因を確かめ、出来れば取り除くために、予言に合わせて、ローワン以下四人が北へと旅立っていく。
 謎の予言があり(今回はローワン自身が、首輪の力で、その時々に予言者となる)、それの解釈のミスによって危機が訪れたりするのだが、それもなんとか乗り切っていく。この「なんとか乗り切っていく」ところがローワンが英雄でも勇者でもない面白さなのだが、今作でもう一つ付加されたのが、ただのバクシャー(家畜)係のローワンが、ただのバクシャー(家畜)係であることこそが、彼の力なのだという点が前面に出てきたこと。彼は勇者でなくても、彼らしくあれば、力を持ちうる。(hico)

『はりねずみ イガー・カ・イジー』(おのりえん:作 久本直子:絵 理論社 2003 1200円)
 丸まっていないときがイガーで丸まっているときがイジー。前者が勇敢で後者は弱虫。
 くまのダウンヒルはカラスに農作物を荒らされて困っています。でもフツーのカカシじゃダメだろうと、くまのかかしをつくることに。クリのイガをくまの肌に見せかけます。と、クリのイガに混じっていたのがはりねずみのイガー・カ・イジー。カラスの見張りとして、ダウンヒルに雇われます。
 くまとはりねずみのコンビがなかなか良く、シリーズ化か?

『おさるのもり』(いとうひろし:作・絵 2003 1100円)
 おさるシリーズ最新作。
 おさるの森には木が一杯で、おいしい果実もあるし、ごきげん。
 でもいもうとは、まだ木を登れない。おにいちゃんさるは、いもうとに教えるために、まず原点である、自分が最初に登れた木をさがそうとするけれど・・・。
 妹が登れるようになって得る大事な物。それが彼女の大切な記念の品物になるのですが、この辺りの、子どもの誇らしさ、うまく描いています。(hico)

『にげだした はりっこ人形』(赤羽じゅんこ:作 文研出版 2003 1300円)
 人形作家の雪枝さん。一番のお気に入りは、最初に作ったべにっことまめっこ。
 でも、引退し妹と一緒に暮らすこととなったマンションは狭くて、とても手元に残した人形すべてを持っていくことは出来ません。
 どうしても欲しいって子どもがいたので、べにっことまめっこももらわれて行くのですが・・・。
 人形は心を持った方がいいのか、いっそ持たないで自分を持っている人間の意のままになっているほうが幸せなのか?
 もらわれてから二人とも、そのことを考えなければならない事態が起こります。持って居た方がいい、が物語のベースには流れていますが、それが揺らぐ様は、こっちまでハラハラさせられます。
 一貫して子どもの側から書き続けている作者が今回は、人形に託して、子どもの心を描いています。(hico)

『きみを守るためにぼくは夢をみる』(白倉由美:著 講談社 2003 1300円)
 10歳の主人公は自分のお誕生日に、転校生の彼女と初めてのデートをする。まだ子どもだけど、いつか大きくなって君を守れっるように、それがぼくの夢だと、彼女に語る。
 帰り道、何故か呼びかける声に応じて、彼はベンチで眠ってしまう。フト目が覚め、家に帰ると、7年の月日が流れていた。ハハも弟(と言っても今は自分より5歳年上)も彼を家族として受け入れてくれる。そして、彼女も。17歳になっている彼女と10歳のぼく。一度はこの恋をあきらめようとしたぼくだったが・・・。
 切なさはよく出ています。ただ、タイトルからもそうなんですが、デートにお昼ご飯を作って持ってきてくれる彼女(10歳の時ね)、15歳の弟は17歳の彼女を好きになっていて、10歳の兄とサッカーのフリーキックで占有権を争う(んなことしている暇、あるなら、直接彼女に聞きなさい)なんかも含めて、ちょいとこまかなキャラ立てが陳腐。(hico)

『宇宙のかたすみ』(アン・M・マーティン:著 金原瑞人+中村浩美:訳 アンドリュース・クリエティブ 2002/2003 1500円)
 これは、ハッティが今までその存在を知らされていなかったアダム叔父と出会い、悲しい結末を迎えるまでの一夏を描いています。
 何故彼がアダムの存在を知らされていなかったかというと、アダムは脳に障害を抱えていたからです。アダムはそのため施設で暮らしていたのですが、歳がいったので、両親(ハッティの祖父母)の元に戻ってきたのです。彼をどう扱っていいか判らないし、理解しようともしない祖父母は、アダムをなるべく人目に付かないように家に止めようとするのですが、パニックに襲われたりしないときは、ちょっと子どもじみた若者って程度なので、そういう訳にも行きません。しかもハッティはこの未知の叔父に興味を持ち、やがて大好きになって行ってしまうのですから。
 物語は、人見知りで、友達もいないハッティが、街にやってきた移動遊園地(時代設定は60年)の少女と、初めて親友になるエピソードを入れることで、ふくらんでいきます。危険も含めて・・・。
 ジャンル的には、癒し感動系なんですが、アダムが良く書き込まれていることと、主人公が語りの形式を取ることで、へたな「感動」に酔うことなく、物語の中の一つの事実として読むことができます。
 表紙は、いいけど、ちょっと出来過ぎかな?(hico)

『ぼくのミラクルねこ ネグロ』(オスバルド・ソリアーノ:作 ファビアン・ネグリン:絵 宇野和美:訳 アリス館 1989/2003.0720 1000円)
 アルゼンチンがまだ独裁体制だった頃、「ぼく」の家族は自由を求めて、パリに移住する。「ぼく」の気がかりは残していくネコのこと。おじさんが預かってはくれくけれど・・・。
 パリで「ぼく」はネコを飼う。黒猫「ネグロ」。「ぼく」の心は寂しさを忘れる。
 短い物語の中に、アルゼンチンの歴史とパリの情景が刻まれます。いいですよ。(hico)

『フルーツゼリー はっきり勇気』(令丈ヒロ子:作 オームラトモコ:絵 あかね書房 1000円)
 シリーズ第一作です。「レシピ付き童話」とのこと。子どものいろいろな悩みを、ピチが教えてくれるレシピで作ったお菓子によって、解決する。今回はいじめられている友達を、声を出して助ける勇気のでる「声はっきりゼリー」。「考えすぎるまえに勇気がでるエッセンス」が入っています。もちろんそんなゼリーはないわけですが、おいしいフルーツゼリーの作り方を読むだけでも楽しいし、読みながら、悩みの解決への第一歩を示してくれる。(hico)

『ザ・ダークホース』(マーカス・セジウィック:作 唐沢則幸:訳 理論社 2002/2003 1500円)
 オオカミに育てられたらしい娘を部族は受け入れ育てる。名前はネズミ。
 この部族の族長ホーンは無能で、権力をもて遊んでいる。
 ネズミと、その兄替わりシグルドはある日、海辺で木地が真っ赤な箱を拾う。それが何を意味し、これからどんなことが起こるかも知らないまま。
 一つの小さな部族と、それを征服に来る騎馬軍団。殆ど絶望の中で、ネズミの真実が明らかになっていく。
 この辺りの意外性は、書くともったいないので、パス。
 人称が、三人称とシグルドの一人称を使い分けていて、それが、物語の緊迫感を高めます。(hico)