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【ブックガイド】
『多文化に出会うブックガイド』(読書工房)
 様々な国を描いた様々な子どもの本を集めたブックガイド。
 ここに取り上げられている本の多くは、他のブックガイドでも定番のものも多いですが、並べ方一つで、こんなに顔が違ってくる、見方が違ってくる、というのが大事です。
 それと、こういう企画でないとお目にかかれなかった、気づかなかった本もたくさん発見できるでしょう。
多文化を意識してもらうために、学校図書館にぜひ。

【児童文学】
『翼のある猫』(イザベル・ホーフィング:作 野坂悦子・うえだはるみ:訳 河出書房新社 上下巻 2011)
普段、後書きは最後に読むのですが、このファンタジー、上巻途中まであまり世界がつかめず、下巻のあとがきを読みました。と、ああ、そうかそれで、そうなのか。と思い、引き込まれていきました。
なので上巻を読む前に下巻のあとがきに目を通されるのもよろしいかと。
 オランダ、そしてヨーロッパの歴史をある程度知っている方がおもしろいです。幸い今はウィキなどで簡単に調べられるので、年号が出てきたときは調べてみてください。

『みてよぴかぴかランドセル』(あまんきみこ:文 西巻茅子:絵 福音館 2011)
 ランドセルを買ってもらったカコちゃんはうれしくて、お外へ。
 うらやましい子狐さん。貸して、貸して。ランドセルをしょって大喜び。次から次へと少しずつ小さな動物たちが借りますけれど、子ネズミにはちょっと大きすぎます。
 泣き出す子ネズミ。でもね、
 みんなを安心させる、あまんワールドですよ。

【絵本】
『タップのゆめ』(アンマサコ 講談社 2010)
 すごい。人間ってすごい技を持っている。
 ミニアチュアサイズで作った立体造形による、絵本。
 私たちは、また一人素晴らしい作家のデビューに立ち会える幸せを得ました。
 靴の修理屋さんのところにはいろいろな傷んだ靴があります。スニーカー、ワラビー、バレエシューズ。
 それぞれがそれぞれの役目をこなして、ここにやってきています。
 タップシューズもその一つでした。
 どれだけ大切にされてきたシューズか、修理するおじいさんにはわかります。丁寧に丁寧に修理して、持ち主に返してあげましょう。
 といったストーリーも素敵ですが、そのストーリーに沿った画面が一つ一つ、立体造形で作られているのです。
それもとびきりの想像力と愛情で!
生きる勇気をもらえるなあ。

『つみきくん』(いしかわこうじ ポプラ社 2010)
 『いろいろかくれんぼ』のいしかわによる、新しいシリーズ(と勝手にシリーズに決めている)。
 普段はちゃんとお片付けされれば、車輪付きの整理箱にきちんと納められる積み木のパーツがつみきくんとなって(ちゃんと整理箱を引いていくところがいいんですね)、町をお散歩。
 木に登って降りられなくなっているネコちゃんがいれば、階段に組変わって助けたり、海に着いたら船になって航海したり。
 積み木本来の機能をつみきくんにすることで屋外でも使って大活躍させる。
 楽しいの。
 いいアイデアです。

『おばあちゃんのおなか』(かさいまり:文 よしながこうたく:絵 教育画劇 2010)
 陽気なおばあちゃんをぼくは大好き。
 特に大好きなのは、その大きな、大きなお腹。乗っかれば滑り台にだってなるし、海に浮かんでいる島みたいだぞ。
 ということで、よしながの絵はいつものように暴走し。ホンマに島になったり、その上で大冒険になります。
 おばあちゃんは亡くなってしまうけれど、ぼくのなかではいつもおばあちゃんと、いやおばあちゃんのお腹で遊んでる。
 好きって、こういうことですよね。

『わたしのおじいちゃんはチャンピオン』(カール・ノラック:文 イングリッド・ゴドン:絵 いずみちほこ:訳 セーラー出版 2010)
 もう、とにかくおじいちゃんが大好きな女の子。おじいちゃんはトロフィーも勲章も持ってないけど、浮き輪を膨らませるのが速いし、修理も得意。きっとお月様の怪我だって治しちゃう。
 子どもよりおじいちゃんが喜びそうな絵本ですけれど、相手の好きなところを見つける絵本。好きに思うと自分も気持ちいいとわかる絵本なんですね。
 ゴドンの絵は感情過多でなく、なんかもう、すごく普通に、いい感じ。

『すきがいっぱい』(マーガレット・ワイズ・ブラウン:さく ガース・ウイリアムズ:え 木坂涼:訳 フレーベル館 2010)
 「好き」を語るのにいきなり「くるまがすき」から入るのは時代性でしょうね。
 ブラウンは、様々な好きを次々と繰り出していきます。ウイリアムズも負けじと描いていきます。
 列車、星、雪、種、魚・・・・・・、そして人間。
 簡単なことなのに、なかなか簡単に言い出せない言葉、「好き」。
 言いまくりましょうよ。

『ほんをよめばなんでもできる』(ジュディ・シエラ:文 マーク・ブラウン:絵 三辺律子:訳 セーラー出版 2010)
 ははは、ホンマかいなのタイトルですね。
 サムな赤ん坊の頃からの読み聞かせが功を奏したのか、字を読むのが大好き子ども。字を読むおたくです。
 字が書いてあれば道路標識も看板も読むし、好き。
 そんな彼の大活躍は、ファンタジーですが、未体験でも文字情報を得ることで何かができるというのは、その通りですね。
 サムほどのおたくになると、普通の人は情報過多になってしんどいのでホドホドが良いですが、ホドホドでも文字情報を得るスキルは持っていて損はない。

『ケイティとひまわりのたね』(ジェイムズ・メイヒュー:作 西村秀一:訳 結城昌子:監修 サイエンティスト社 2011)
 非常に良くできた、楽しい絵画入門絵本シリーズです。
 様々な著名作品を物語のように結びつけていくことで、興味を、いや親しみを与えてくれます。
 設定は、おばあちゃんと一緒に美術館にやってきたケイティが遭遇する絵画との冒険。
 今作では、ゴッホのひまわりをケイティが絵から床にぶちまけてしまい、それを見ていたゴーギャンの『踊るブルターニュの少女たち』が笑い、ケイティはその絵の中に。事情を知った少女たちは絵から出て、ひまわりを集めるのを手伝ってくれます。でも犬のサズーが、せっかく作った花束をくわえて、今度はゴッホの『夜のカフェテラス』の中へ・・・・・・。
 という展開です。
 美術館の絵画がケイティの想像力によって結びつき、活き活きと立ち上がっていく。
 三作が一気にでましたが、これからもどんどん出るでしょう。楽しみ、楽しみ。

『カップケーキのバニラくん』(シャリース・ミリクル・ハーパー:作 二宮由紀子:訳 BL出版 2011)
 バニラクリームが乗っかったカップケーキのバニラくん。はりきって、他のカップケーキくんと一緒に大きなお皿の上に。チョコやミントや、みんなきれいにトッピングされてすてき。みんなの一緒に並んでうれしいバニラくん。
 でも、でも、みんな手に取られていくのに、バニラくんだけが大きなお皿に残されてしまった。やっぱ、白いクリームだけでは地味?
 落ち込むバニラくん。そこに、こちらもシンプルなキャンドルくんがあらわれて・・・・・・。
 妙におかしく、悲しく、そして幸せになります。

『おとうさんおかえり』(マーガレット・ワイズ・ブラウン:文 スティーヴン・サヴィエッジ:絵 さくまゆみこ:訳 ブロンズ新社 2011)
 第二次世界大戦後の帰還兵を迎える子どもを、様々な動物と一緒に語り、子どもの喜びを描いたブラウンの文に現代のリノリウム版画家サヴィエッジが絵本に。
 当たり前のことですがリノリウムは木版と違って木目がないので、作家がより自由に表情を付けることが可能です。木版にある風合いは失われますが、圧を掛け、はがしたときの絵の具の残り具合が独自の世界を作ります。サヴィエッジは、彫りのタッチをあえてシンプルにして、時の流れを引き戻しています。
 子どもたちの喜びは別として、帰還兵の職場確保のために、社会進出していた女たちが家の中へと戻されてしまったことも忘れないでおきたいですね。

『ちいさな ちいさな おんなのこ』(フィリス・クラシロフスキー:文 ニノン:絵 福本友美子:訳 福音館書店 2011)
 1953年作品。
 小さな、小さな女の子が、しだい、しだいにおおきくなっていく喜び、いや違うな。周りのものが、しだい、しだいに小さくなっていく驚きを、ゆっくりゆっくり、丁寧に描いています。
 ですから私たちは、小さな、小さな女の子の成長を見守るというより、彼女といっしょに育つ喜びを味わえます。
 犬と猫もかわいいぞ。

『しんのすけ と どうぶつの国』(松元伸之介 ワニブックス 2011)
 松元には人がみんな動物に見えるのか、動物として描くのかはわかりませんが、その動物たちはみんな楽しそうで、こちらまで愉快になれます。
 群像の行進が多いのは、人が大好きである証しなのでしょう。

『ぼくが一番望むこと』(マリー・ブラッドビー:文 クリス・K・スーンビート:絵 斉藤規:訳 新日本出版 2011)
 まだまだ黒人差別が激しかった時代。ぼくはまだ子どもだけれど親と一緒に朝早くから働いている。新聞を読める人が、社会で起こっていることを読み上げてくれて、ぼくたちはそれを聞いて学ぶ。ぼくもいつか字を読めるようになりたい。
祖母から贈られた文字を学ぶための大切な教則本。ぼくは少しずつ文字を覚えていく。
知識や教養がやがて自分の誇りを形作っていく。今の私たちはわざわざそんな風に考えなくてもいいですが、考える必要のあった差別された人々の物語。

『わたしのとくべつな場所』(パトリシア・マキサック:文 ジェリー・ピンクニー:絵 藤原宏之:訳 新日本出版社 2011)
 パトリシアももう12歳。今日は「あの場所」へ初めて一人で出かける日です。大丈夫だよ、おばあちゃん。私ちゃんといけるから。
 バスは黒人席に座って、公園のベンチは白人専用と書いてあるから、疲れているけど座ってはいけないし、お腹がへったけどレストランは白人専用。でもどうせお金がないから路上スナックですませましょう。話しかけてきた白人の男の子。カワイイ。でも白人のおかあさんは、話しちゃだめだって。
そしていよいよ、「あの場所」。
私は胸を張って入る。だってそこは、黒人も入っていいことになった図書館だから。たくさんのことを学ぶんだ。
それ以前の状況を描いた『ぼくの図書館カード』(ウイリアム・ミラー:文 グレゴリー・クリスティ:絵 斉藤規:訳 新日本出版社 2010)も併せて読んでくださいませ。

『神様の階段』(今森光彦 偕成社 2010)
 バリ島にある棚田とそこで生きる人々。
 刈り取りの横の田んぼでは田植えという風景。気温が高いので、好きな時期に田植えをしていい。
一面の棚田には色んな段階の稲が植わっている、私たちには不思議な風景。
 牛での耕作。アヒルによる雑草取り。
 一日が暮れていく。
 うん。確かに神様の階段です。

『ナノってなんなの?』(ハリー・クロトー:さく デイヴィッド・クロトーえ まえかわとおる:やく 冨山房 2010)
 タイトルのだじゃれは、まあ無視して、これはナノテクノロジーの基礎となるバッキーボールと呼ばれる分子のお話です。作者はこれを発見してノーベル賞受賞。
 といってもバッキーボールに関しての話までさすが絵本では無理なので、それを見ることができる大きさまで、ベンジー少年と犬のブルーノが小さくなっていく過程を描きます。
遠近法を知ることと、サッカーボールが六角形と五角形で球体を作っていることと、この二つから、小さくなり球体を探す旅が始まります。
10分の一ずつ小さくなっていくので、イメージしやすいですよ。

『きんぎょ』(ユ・テウン:作 木坂涼:訳 セーラー出版 2010)
 森の奥にある図書館。というだけでもうドキドキですが、ユの想像力はそんなレベルではありません。
 ジェジェはおじいちゃんに連れられて森深い、古びた図書館へ、赤い金魚を入れた鉢を持って行きます。
 天井まで壁全体に本、本、本。床に転がり夢中で読むジェジェ。と、金魚が逃げて本の中。本を広げるとたくさんの金魚が飛び出してきます。ジェジェの金魚がまた別の本の中へ。今度はジェジェも吸い込まれ・・・・・・。
 ノスタルジックな色調に鮮やかな赤。予想もつかない展開と、穏やかな終結。心が一時、日常から外れて、また引き戻されるめまいを感じることができます。

『ノアの箱船』(リスベート・ツヴェルガー:絵 ハインツ・ヤーニッシュ:文 池田香代子:訳 BL出版 2011)
 おなじみの物語をツヴェルガーは自我を前に出すことなく、いつものごとく博物画のように描いていきます。特に今作はテーマがテーマですから、その効果は高く、ノアの箱船のイメージがしっかりと浮かびます。
 何しろきれいな絵本だわ。

『森のみずなら』(高森登志夫:ぶん・え 福音館書店 2011)
 無駄のないタイトルと、無駄のない言葉。みずなら木の一生を、高森は静かに語っていきます。
 画もまた森の静謐さに満ちているのですが、もちろんたくさんの生き物たちがいて、みずならが落とすどんぐりを食べて生きている、その生命の心地良い騒がしさがそこから溢れています。
 人間とは違う時間を持つ森をじっくり楽しめる絵本です。
 一見、子ども向けではないように見えますが、いえいえ、こんな静けさも子どもは好きですよ。

『とかいのねずみと いなかのねずみ あたらしいイソップのおはなし』(カトリーン・シェーラー:作 関口裕昭:訳 光村教育図書 2011)
 田舎のねずみが都会にやってきて、田舎の方がいいと帰って行くお話を、シェーラーが、どちらにも良いところと悪いところがあるという風に、現代の視点で描き直したイソップです。
 画面は引きと寄りを多用し、リズム感を高めることで読者を物語に誘い込むダイナミックさは、『ちょっとまって、キツネさん!』と変わらず素敵。
 他の作家による絵本もたくさん出ていますので、比べてみてください。

『ろばのとしょかん』(ジャネット・ウインター:文と絵 福本友美子:訳 集英社 2011)
 ジャングルの中の一軒家。ルイスは本が大好き。読んで、読んで、読んで。
 あらら、いつのまにか家には入りきれないほどとなってしまいました(他人事ではない!)。
 そこでルイスは考えた。本のない奥地へ運んで子どもたちに読ませてあげよう!
 二頭のロバに本を積んでルイスはどんどん進みます。
 本というものの素敵さを伝えてくれます。
 子どもの頃、本のワクワク感を思い出しました。

『クリスマスツリー』(吉村和敏:写真・文 アリス館 2010)
 吉村が撮った世界中のクリスマスツリーを巡る家族たちの写真絵本。
 外、部屋の中。イルミネーション、雪。
 人は幸せを願っていることが、クリスマスツリーによって良く伝わってきます。
 願っている幸せと、実現しない幸せと、訪れた幸せ。色んな思いを持てるでしょう。
 たくさん願いが叶いますように。

『かさの女王さま』(シリン・イム・ブリッジズ:作 ユ・テウン:絵 松井るり子:訳 セーラー出版 2008)
 主に傘作りを生業にしているタイの山村。一番きれいな手染めの傘を作った人がその年の傘の女王に選ばれます。
女王に憧れる女の子ヌットは、練習の傘を作らせてもらいますが、伝統の図柄じゃなくて大好きな象を描いたために、商品にならないと言われてしまいます。
さて、いよいよ女王を選ぶ時期になりました。今年は王様をお呼びして決めてもらうことになりましたが・・・・・・。
物語は過不足無く素敵です。そしてなんといってもユ・テウンの絵の素朴な力強さ!
 すばらしい。

『いちにちぶんぼうぐ』(ふくべ あきひろ:さく かわしま ななえ:え PHP 2010)
 ふくべさん、どうしてこんなこと思いつくのでしょうか?
 いきなり少年が、「ぶんぼうぐって、かしこそうだな。よし、いちにち ぶんぼうぐになってみよう」と思いついて、同じ服装のままの少年が文房具姿に!(かわしまさんの絵がよろしいなあ)
そして、クリップって力がいるなあとか、感心するわけ。
わかったような、わからんような。
ふくべさんによれば、自分の子どもが勉強するようにと考えたそうです。ほんまかなあ。

『コルチャック先生 子どもの権利条約の父』(トメク・ボガツキ:作 柳田邦男:訳 講談社 2011)
 コルチャックの伝記絵本です。比較的豊かな家に生まれた彼は、小さな頃から一貫して貧しい家、それも子どもへのまなざしをかえません。
 彼らの笑顔と幸せを生き甲斐にしていたコルチャック。
 ボガツキは、大人になってからの彼の表情を暗く不安げに描きます。きっと笑顔もあったでしょうに。
 それはきっと、コルチャックが抱えるには大きすぎる幸せの擁護が必要なのをわかっていたということでしょう。
 伝えていかなければならない、人間の愚かさは、残念ながら、いつまでも色あせることはありません。

『スティーヴィーのこいぬ』(マイラ・ベリー・ブラウン:文 ドロシー・マリノ:絵 まさきるりこ:訳 福音館書店 2011)
 スティーヴィーが子犬を拾って、友達たちとかわいがります、でも、捨て犬じゃなく迷い犬みたい・・・・・・。
 おとうさんは子犬を拾ったことを新聞社に投稿。
 子犬との楽しい時間と、不安。素朴な絵の中から漂ってきます。

『うずらのうーちゃんの話』(かつやかおり 福音館 2011)
 幼稚園の先生からもらったうずらのうーちゃんとぼくの日々を描いた物語。
 うーちゃんが産んだ卵を食べる話、うーちゃんが飛んだ話、足を失ったうーちゃんが元気になるまでの話。
 小さな、小さなエピソードたちが、ぼくにとってのうーちゃんの大切さを刻々と伝えていきます。
 その愛しさはなかなかのものです。

『細菌ペーチカ』(グレゴリー・オステル:文 ワレーリー・ドミトリューク:絵 毛利公美:訳 上下巻 東宣出版 2011)
 細菌の子どもが主人公というのが、なんだかすごい。友達のアンギンカなんて、のどを痛くする細菌で、冷蔵庫のアイスクリームに住んでいたりします。
 学校に行きたくない子どもが、風邪になりたくて頼み込むとか、なんだか奇妙なお話がいっぱい。
 おばさんなんか、軍人で、細菌特殊部隊の大尉さんだから、怖い。
 登場人物(細菌)はみんな青みがかって描かれていて、それも怖い。
 ラストはペーチカがケフィア係になってヨーグルトの責任者に指名されてめでたし、めでたし。
 細菌の子どもというより、子どもは細菌だと子ども読者に言って、子ども読者を笑わせているということです。

『カブトムシがいきる森』(筒井学:写真と文 小学館 2010)
樹液に集まるカブトムシの群れから始まって、卵を産んで、その卵が孵化して、虫になって、さなぎになって、生まれてくるまでを、もう愛しさ溢れて切り取っています。
 好きなんだというのが、とてもよくわかる作品なので、その幸せ感がこっちにも伝わってきて、幸せになれる仕上がりです。
 いいわあ。

『いろいろサンドイッチ』(山岡ひかる くもん出版 2011)
 山岡のおいしい、おいしい、いろいろシリーズです。私はいまだにあのたまごかけごはんのおいしそう! が忘れられませんです。
 今回はサンドイッチですから、「たまご」や「ごはん」や「じゃがいも」と違って、制限があるのでどうするか心配でしたが、やっぱり大丈夫。
 おいしそうなサンドイッチが出てきます。
 まあ、挟む物に関しては異論がないわけではありませんが、それは嗜好だからね。
 オチもよろしいです。

『串かつやよしこさん』(長谷川義史 アリス館 2011)
 よしこさんのお店には色んなお客さんがやってきます。怒った人からどろぼうまで。でもみんなよしこなんお串カツを食べると良い気持ちに。どろぼうは「あわび」の串カツをたべて「おわび」しますよ。
 ははは。

『トリックアート図鑑 ふしぎ絵』(北岡明佳:監修 グループ・コロンブス:構成・文 あかね書房 2011)
 「だまし絵」に続く第2作目です。
 アルチンボルトから始まって、古今東西様々、奇妙な絵が満載です。無知な私は、浮世絵にもアルチンボルトのような絵があるのは知りませんでした。「よせ絵」っていうそうです。
 目の錯覚を利用した絵はおなじみのものが多いですが、やっぱり見つめてしまいますね。
 まだ知らない子どもたちは、ぜひぜひ知ってください。それは物の見方を柔軟にしてくれますから。

『てんのおにまつり』(宮崎優 宮崎俊枝 BL出版 2011)
 ニッサングランプリ受賞のデビュー作。
 たいこのリズムにのっておにの子どもたちが龍神や山の神に戯れ遊ぶ。そんな楽しい風景を両宮崎は、様々なパターンをコラージューして、これまでなかったような見事な空間で表現しています。
別に変わったことをしているわけでも無いはずなのに、色使いと画面構成のすばらしさで、まつりの浮遊感を演出。
すごい、すごい。

『ひとつのみやこ ふたりのきょうだい』(クリス・ズミス:ぶん オーレリア・フロンティ:え ひらのかつき:やく リトルベル 2010)
 遺産の土地争いをする兄弟にソロモンが語るという、ユダヤの説話。
 仲の良い兄弟はそれぞれの豊かな土地で収穫をしていました。兄は結婚し子どもも生まれます。
 豊作の年、弟は、家族がいて兄も大変だろうと、こっそりと兄の食糧倉庫に自分の穀物を運びます。一方兄は、家族のいない弟は年を取っても面倒を見てもらえないと心配して、こっそりと弟の食糧倉庫に自分の穀物を運びます。
 お互い、自分の穀物がちっとも減らないのを不思議がる。
 オーレリア・フロンティの絵は、画面の隅にも意味のある心配りをしていて心地良し。

『マドレーヌとローマのねこたち』(ジョン・ベーメルマンス・マルシアーノ:作 江國香織:訳 BL出版 2009)
 ミス・ミラベルの引率でマドレーヌたちはローマ観光へ!
 遺跡を見たり、おいしい料理を食べたり、楽しみます。
 が、ミラベルさんのカメラが盗まれた! 追いかけるマドレーヌ。逃げる女の子。
 この追跡のシーンも観光をかねています。
 さてさて、結末は思わぬ方向に。
 安定したシリーズの安定したお話をお楽しみください。

『はらぺこさん』(やぎゅうげんいちろう 福音館 2011)
 「はらぺこ」にしぼって描いたやぎゅうの視点がいいですね。
 子どもはよくお腹が減るし、ものすごく共感すると思う。
 お腹減ってきた。なんか食べよう。

『ふしぎなまちのかおさがし』(板東勲:写真・文 岩崎書店 2011)
 窓、信号機、マンホール、ボルト、雲。様々なものに顔を発見していく写真絵本。
 顔ってたくさんありますね。というか、人間は色んなものとつい顔と見てしまう。
 それだけ人を意識しているのがよくわかります。

『ゆかいにひろがることば絵本』(五味太郎 ひさかたチャイルド 2010)
 おおきいとちいさい。体がおおきいちいさい。でもなめているアメはおおきい人がちいさくて、子どもはおおきい。といった、状況によって言葉が使い分けられることを見やすく示していくのはさすが。
 それプラス、愉快なんだよね、やっぱり。
 そしてその愉快さが、豊かさなんです。

『ひいばあのチンチンでんしゃ』(さくらいともか 岩崎書店 2010)
 今日はひいおばあちゃんと一緒にチンチン電車に乗ります。
 運転席の後ろで見学。
 あれ、なぜだかひいおばあちゃん、運転に詳しい。色々教えてくれる。
 今日はチンチン電車が走って100周年の日。昔運転手だったひいおばあちゃんはお祝いにゲストに呼ばれていたのでした。
 ひいおばあちゃんが運転手だったのは、戦争時代男が兵士に取られていたからなのですが、その辺りももう少しわかるようにして欲しかったです。
 でも、すがすがしい絵、様々な角度からのチンチン電車の姿と、楽しい画面がいっぱいです。

『おばけのおもちゃばこ』(ジャック・ヂュケノワ:さく おおさわあきら:やく ほるぷ出版 2009)
 パコームが屋根裏を整理していたらクモがいっぱいでてきてしまって、さあ大変。
でも、おもちゃのくにのプリンセスリュシールがおもちゃばこからでてきて、クモさんで一緒に遊びます。
ヨーヨーにできるし、繋がれば縄跳びにもなるし、綱わたりだってね。
今作はクモを金色で描いていて、なんだか豪華な仕上がりです。
物語全体の妙な落ち着き方がこのシリーズの魅力なんですね。
安心しちゃう。

『へいきのへいきの へのかっぱ!』(苅田澄子:作 田中六大:絵 教育画劇 2011)
 もう、タイトルまんまの、へのかっぱくん、大活躍の物語です。
 悪いやつはやっつける。困った人は助ける。
 相棒の女の子はほのかっぱちゃん。
 でもでも、べのかっぱが現れて大暴れ。ベロベロとへのかっぱのお皿の水をなめてしまい、皿まで割ってしまった。
 さあ、たいへんだ、力がでないぞ。
 てな具合に快調に展開します。
 『だいくのたこ8さん』で笑わせてくれた、洗練とは縁のない田中六大の画が良いですね。

『こんもりくん』(山西ゲンイチ 偕成社 2011)
 小さな頃から髪を切るのが嫌いだったこんもりくん。今では体の十倍以上ある大きな大きなアフロヘアみたいになってしまっています。
 本人は気にしてないけど、転んでしまったとき、こんもりくんは、自分の髪の毛の中に落ちてしまいました。と、ああ、そこはもう、ああ。
 どうしましょう。どうなるんでしょう。

『おつきさまとちいさなくま』(アンドレ・ダーハン:作 きたやまようこ:訳 講談社 2010)
 夕日に向かってボートをこいでいるシロクマの子ども。水辺線にたどり着けば夜の国にいけるのではと思ってイルカに引っ張ってもらいます。やがてボートは空へと飛び立ち、子熊はお月様をギュ! 夜の世界を案内してもらい、自分の住む星、地球世界を案内します。
 宇宙も含めて、世界全体が愛おしく生きていることを示そうとする、柔らかな「ギュ!」系絵本です。

『ソフィー ちいさなレタスのはなし』(イリヤ・グリーン:作 ときありえ:訳 講談社 2009)
 ソフィーたち四人の子どもは、レタスの種を植えます。
 レタスにはナメクジは寄ってきて食べてしまうので(そうなんです)、それぞれの工夫でわなを仕掛けます(ビールをお皿に入れておくのが良いのですが、子どもだしね)。
 みんな毎日心配していますが、ソフィー以外は無事に芽が出てきました。
 頭に来たソフィーは悪いことを考えます。友達のレタスを自分の場所に植え替えて、元の場所には枯れ枝を。
 でーも、そんな「いいおもいつき」がうまくいくわけはなく、見つかってしまいます。
 さてどうなる?
 イリヤ・グリーンはみんなをちゃんと無事回収しますよ。

『ケープドリ あらしのまき』(ワウター・ヴァン・レーク:作 野坂悦子:訳 朔北社 2010)
 ケープドリとツングステンは仲良し。
雨の続く火。おうちでのんびり過ごそうとしていたら、薪が切れていて、寒い。犬のツングステンが厚めに出て行ったけど、心配なケープドリは、なんとストーブを引きながら、嵐の中後を追います。
やっと見つけたツングステン。でも、小さいから小枝を一本持っているだけ。
でも、その場でテントを作ってケープドリも薪を集めたら、ほらちょっとしたキャンプ気分で、ポカポカ。
「仲良し」の気持ちよさを描いています。
あちこちに著者の色んな落款が押してあるのも楽しいですよ。

『にているね』(五味太郎 「かがくのとも」4月号 福音館)
 馬にいすが言います。僕ら似ているって。
 人を乗せるし。思い人がとしんどいし。4本足だし。
 いすは色々言いますが、馬は違うと主張。
 似ているの? 似てないの?
 概念というものを、わかりやすく描く五味の腕前。

『はしれはしれ』(きむらよしお 絵本館 2010)
 ライオンがラクダを捕まえようと走り出す。
 ラクダがライオンに捕まらないようにと走りだす。
 いくらお腹が減ってても、やっぱり疲れもするから、ライオンは休む。
 いくら命が掛かっているからって、やっぱり疲れもするから、ラクダは休む。
 なんだか2匹、妙に気が合う感じで、走るのも休むのも同じ時間。そこがなんだかおかしい。
 きむらよしおはおもしろい。

『くるまかします』(鈴木まもる 教育画劇 2011)
 鳥の巣でおなじみの鈴木による車絵本。
 といっても、少年が持っている色んな車のおもちゃを困っている動物に貸すという、想像力絵本です。
 ごっこ遊びがから、現実のエピソードへと変わっていきます。

『しましまのティーシャツをきてみたら・・・』(土屋富士夫 PHP 2009)
 赤いしまのシャツを見つけたひでくん。さっそく着てみました。すると、海賊現れて、ひでくんは海賊の船長だ!
 冒険への導入が巧いですね。
 大きなタコと戦ったり、宝箱を見つけたり、おきまりの海の冒険が楽しく展開します。
 そこからどう抜け出すかはお楽しみ。
 基本的には『かいじゅうたちのいるところ』系ですが、動機はありません。そのことを弱いと考える読みも可能ですが、普段でもこうした想像力で楽しめるよっていう、土屋の主張に同意。

『サイしょちょう、きんきゅうしゅつどう!』(サム・ロイド:作 ふしみみさお:訳 BL出版 2010)
 消防局の所長さん、火事がないのはうれしいけれど、チト退屈?
 と、火が見えた!
 はりきったサイ所長さん、消火に駆けつけるのですが、100歳のおばあさんのバースデーケーキのろうそくでした。それをびしょびしょにして、どうしましょう。
 いいおばあさんで、ケーキが柔らかくなって食べやすいだって。

『ルビーとレナードのひ・み・つ』(ジュディス・ロッセル:作・絵 ささやまゆうこ:訳 PHP 2010)
 ねずみのルビーとレナードが秘密の作業をはじめました。それはカップケーキを作ること。
 小さなねずみがいかにして大きな牛乳パックや卵を扱ってカップケーキを作っていくかが、まず見物です。
 色んなデコレーションも終わって、さて作った目的は?
 そうか、そうか、ネズミですもんね。
 幸せな結末です。

『地球と宇宙のおはなし』(チョン・チャンフン:文 山福朱美:絵 おおたけきよみ:訳 講談社 2009)
 タイトル通りの宇宙解説絵本です。
 それは普通ですが、山福の版画が良いです。
 宇宙画といえば、昔は細密画が子どもをときめかせ、今はCGが3Dまで含めてありそうな姿を見せてくれるのですが、版画の場合、そのリアルをはなから放棄せざるをえず、あくまで山福のイメージで太陽が、地球が、月が描かれていきます。
 太陽はただ赤く丸いのではなく、エネルギーが矢のように発しているように描かれたりね。
 そして、細密画ではないので、星から人々の暮らす風景までが同じタッチで描かれる。
これはなかなか感動的です。

『うたうホッペくん!』(キム・ヨンジン:作・絵 星あキラ&キム・ソンミ:訳 フレーベル館 2009)
 子ブタのホッペくんは学校で歌をほめられ、それを聞いて欲しくて家に帰ります。
 なのに、母親も父親も関心なし・・・・・・。
 次の日おばあちゃんの家に出かけることに。ホッペくんは大喜び。
 だっておじさんは音楽が大好きだから、きっと喜んでくれるはず。
 なのに、おじさんは旅行中。
 誰もホッペくんの落ち込みに気づいてくれません。
 おじさんに部屋に入ったホッペくん。するとそこはファンタジー空間に変貌していて、ホッペくんはステージに!
 ホッペくんのなんとうれしそうなこと。
 キム・ヨンジンの描く輪郭は独自の流線で、印象深いです。
 絵の色んなところで、ホッペくんのマスコットが隠れていますからそれも探してくださいね。