じどうぶんがくひょうろん


No.35 2000/11/25

       
    
    
【絵本】
『おばあちゃんにおみやげを・アフリカの数のお話』(オニェフル:作・写真 さくまゆみこ:訳 偕成社 1995/2000)
 うーん、いいなー。
 副題の通り、アフリカの家族を素材に、数の概念も教えようという作品。
 なんのけれんもない、ごくごくシンプルな写真絵本やけど、温もりがまっすぐに伝わってくる。土的な全体の色がまずいい。これ、光の具合もあるので、日本では難しい。
 「1」で、一人の少年が紹介される。それが、「1」の概念。そして友達と一緒で「2」。「3」はあばあちゃんチへ行く途中で出会った三人。
 なら、ずーっと、人が増えていくのかと思うと、「4」では4つの箒になりと、数の概念とは、同じ素材の数でなく、すべての物と抽象に同義であるという一番大事な点も押さえています。
 「9」がすばらしいし、で、「10」に至って、子供たちの顔のいいこと!

『あっ』(涌嶋克己 解放出版社)
 阪神淡路大震災支援TシャツのイラストでもおなじみのWAKKUNこと涌嶋克己による絵本。
 田島征三、長谷川集平系譜の力強いタッチ。恐喝なさっている人から、工事現場で働いている一間で、様々な大人が、仕事の途中で「あっ」と叫び、それから・・・。
 その一見荒々しい画風ですが、表紙の装丁、色使いなどの細やかさを見ると、この作者が作品との距離をちゃんととっている、なかなかな使い手なのがわかります。
 解放出版社は、絵本はそんなにこなしてる出版社ではないけど、その割にいいセンスなので、今後も注目したいね。

『ピンク、ぺっこん』(村上康成 徳間書店 2000)
『ピンク!パール!』(村上康成 徳間書店 2000)
 ヤマメのピンクの三部作の二、三部。幼魚時代から、子孫を残すために川に戻ってくるまでを、とてもシンプルなストーリーで描きます。これが巧い。それは自然派の作者が頭の中だけでなく現場を熟知しているから。タッチは優しいけれど表現はダイナミックなんです。力強い。

『火に気をつけて、ドラゴンくん』(ジーン・ペンジオル:作 マルティーヌ・グルボー:絵 野坂悦子:訳 PHP 1999/2000)
 表紙に「火事から身を守るために、子どもが知っておくこと(ドラゴンくんもね!)」とあるように、火事への対処法を子どもに伝える絵本。といえば教育絵本みたいですが、そこで創作絵本になっているところが買い。女の子がドラゴンをペットにしたけれど、ドラゴンくんの困ったところは、例えばくしゃみで鼻から火が出てしまうこと。女のことドラゴンの日々がちゃんと描かれています。

【創作】

『ごぜん2じのにじ』(山下明生 橋本淳子:絵 理論社 2000)
 山下の「空とぶ学校」シリーズ6じかんめ、「ずこう」です。
 ごぜん2じのにじはダジャレではなく、空気のきれいな場所では満月の光でにじがでる、それのことです。美術の先生のパパと一緒にハワイにでかけて、それを見ようと出かけた私は・・・。
 物語の最後には、虹がどんなときに出るかの解説がおまけとして置いてあります。
 物語と事実解説。物語を使った科学物の場合は、物語が事実を補強しているのですが、この書物は事実が物語を補強しています。そうすることで、物語だけで完結した物語とは別の雰囲気を出しています。

『おさわがせなバーティくん』(ケネス・グレアム:作 アーネスト・H・シェパード:絵 徳間書店 1947/2000)
 ケネズ・グレアムが自分の息子に語ったお話です。『たのしい川辺』の源流の一つ。それに、『プーさん』『たのしい川辺』のシェパードが絵をつける豪華さ。
 物語は、プライベートに作られたものですから、『たのしい川辺』のようししっかりと世界が構築されているわけではありません。
 いわば私たちは、ゲレアムが子どもの物語っている部屋を窓から覗き込んで、一緒に聴いているようなものです。
 しかしここにも、確かに、『たのしい川辺』にある、静かさとドタバタのリズムが存在しています。『たのしい川辺』ファンはチェック。

『はじめてみんなとかえった日』(いながき・きょうこ 偕成社 2000)
 これはフィクションではありません。小学校の教師であるいながきが担任した1年3組の一年間を綴ったもの。クラスには歩行器が必要な障害者はるなちゃんがおり、彼女を巡っての、ではなく、彼女と一緒に過ごす一年間。もちろん彼女の学校生活を考えること、例えば同じ障害をシミュレートして実感するなどの風景があり、それがクラスのパワーになっています。しかしそれ以上におもしろいのは、それはきっかけであって、あくまで彼女はクラスの一員として扱われること。というか、偏見さえ抜き去ることができれば、子どもたちの間で障害は互いを分ける事象とはならないのが、よくわかる。

『さよなら、「いい子」の魔法』(G・K・レヴィン サンマーク出版)
 生まれたとき、妖精から「従順」という贈り物をもらってしまったエラ。彼女は誰のどんな命令にも従ってしまうしかない。だからこの贈り物のことは決して人に気づかれてはいけないと亡くなった母親から「命令」されているエマ。でもフトしたことでそれに気づく者もいて・・・。シンデレラのパロディ物の一つと片づけるのは勿体ない作品。女にとって「従順」の怖さ、苦しさが伝わってきます。