毎日新聞子供の本新刊紹介

甲木善久
2002年01月分

           
         
         
         
         
         
         
     
「ルート225」
 14歳のエリは弟と、この世界とは少しだけ異なる、両親のいない世界に迷い込む。二つの世界を繋ぐのは元の世界のテレカでかける電話だけ。他者とのズレを感じつつ、しかし微細な違いに対するナルシシズムを頼りに生きるしかない現代人の心情を、象徴的な設定で描き出した傑作である。
(藤野千夜作/理論社、本体1500円)

「ほこらの神さま」
 5年生になったばかりの少年たちが、ふとしたはずみで古い祠を拾ってきたことから始まる、春から夏にかけての不思議な日常を、富安陽子にしては珍しくファンタジーの力を抑制しつつ物語る。けれど、それがこの作品の持ち味なのだ。子供の目線で成り立つ世界が健やかに美しい。
(富安陽子作、小松良佳絵/偕成社、本体1000円)

「けんかのきもち」
 仲良しなのに…わけもなくけんかして、とびかかって、泣かされて、くやしくて、ふてくされて、おさまって、緊張して、仲直りして、照れる。丸ごと一冊の絵本が、こんなにも「きもち」だけで成り立つなんて思ってもみなかった! 頭でなく身体に響く絵の力に感動してしまう。
(柴田愛子文、伊藤秀男絵/ポプラ社、本体1200円)

「ぶぎゃぶぎゃぶー」
 ちと怪しげなブタおじさんのバスは、ぶぎゃぶぎゃぶーと走ります。あっちこっち、どっちそっち、大雪だって池だって、猪突猛進、変幻自在。リズミカルな文と、遊び心に満ちた絵の融合から生まれるナンセンスパワー爆発の絵本です。これはぜひ声に出して読みたい!
(内田麟太郎文、竹内通雅絵/講談社、本体1500円)

「おおきくなりたいちびろばくん」
 トイレも、着替えも、お食事も、ちびろばくんはひとりでやりたい! そこで上手に描けた絵を持って、遠くのぶたくんの家まで一人旅に出かけます。自立心に目覚めた男の子が心細さを乗り越えつつ旅をする姿と、それを見守る母親の優しさがハーモニーを織りなす温かな絵本です。
(リンデルト・クロムハウト作、アンネマリー・ファン・ハーリンゲン絵、野坂悦子訳/PHP研究所、本体1200円)