コドモの切り札

(71)

ちょっと深読み

甲木善久
           
         
         
         
         
         
         
         
    
 さて、今週は内田麟太郎さんのもうひとつの新作もだちや』(降矢なな絵 / 偕成社)の話である。
 どんな物語なのかといえば、タイトルから分かるとおり、一匹のキツネが「ともだちや」を始めるというもの。「ともだちや」というのは、一時間百円、二時間二百円で、さびしい人のともだちになってあげる商売なんだが、それと関係あるのかないのか知らないけど、このキツネが実に実に怪しいのである。その怪しさが画面全体から、そこはかとなく漂ってくる。緑のノースリーブに黒のズボン。青いウキワを腰に巻き、両手には提灯を持ち、さらに、ゴーグル付きの赤いヘルメットに「ともだちや」ののぼりと紅白の餅の花なんかを立てている。
 この怪しいキツネが、クマと一緒に好きでもないイチゴを食べてお仕事したりするのだが、次のお客のオオカミで事件が起こる。トランプが終わり、お会計の段になったとき、お金を払ってくれないのだ。画面いっぱいにデッカイ口を開け、目をとがらせ、牙をカチカチ鳴らしながら、「お、おまえは、ともだちからかねをとるのか。それが ほんとの ともだちか」なんていうのである。
 で、この後、キツネはどうしたか? なんと!喜ぶんである。オオカミの大事な宝物のミニカーをもらったり、一緒に食事したり、スキップしながら帰ったりして、喜ぶのである。大声出されたせいじゃない。「ほんとうのともだち」ってセリフにぐっと来たのだ。
 この物語を読み終えたとき、僕は「援助交際から立ち直る話か?」と思ってしまった。でなければ、ドロップアウトした高校生がボランティア活動に参加して生き甲斐を取り戻す話とか。
 深読みかもしれないけど、キツネが必要以上に奇抜なファッションであることや、すぐにお金を介してコミュニケーションすることを思いつくあたりに、今の若者がダブって見えたのよねェ。
西日本新聞1998,02,15