コドモの切り札

(39)

義務教育という怪

甲木善久
           
         
         
         
         
         
         
     
 日本国憲法第二八条には「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と書いてある。でもって、その第二項には「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする」とも書いてある。
 中学校三年の二学期、二年のツケの歴史分野がやっとこさ終わり公民分野の授業に入ってこのことを知ったとき、僕は、思わず「ウソだろ!」とつぶやきましたね。
 だって、そうでしょ? 小学校から中学にかけて、ずーっと、「義務教育」は子供の方の義務なのだと思い込まされ、理不尽なルールにただ黙って従うことを強制され…。で、それもあと半年のガマンというところまできて、いやー、実は、義務教育って大人の方の義務だったんですよ。子供の方にあるのは教育を受ける権利!教育を受けたかったら受けられるよ、って権利なのよね。なんていわれても、なんだかダマされていたような気がするじゃありませんか。
 しかも、だ。
 公立学校の場合には、それぞれの家庭でそれぞれに教育を受けさせる義務を遂行するのは大変だから、税金を使って専門の公務員を雇い、その人達に代行させよう、という趣旨で運営されているはずなのに、そんなことをちっとも理解していない連中が自分達をセンセイとか何とか呼ばせて威張っている。
 まあ、こんなことを思うのは、義務教育期間中の僕の「教師運」がものすごく悪かったせいなのかもしれないけど、しかし、それにしても、制服とか丸刈りとか、アレコレつまらない校則とか、まだまだ少なくないはずだ。
 いたいけなお客相手に威張り散らすサービス業なんて、ロクなもんじゃないと思うよ。
西日本新聞1997.06.29