絵本ってオモシロイ

11.じゅうたん、するする
米田佳代子

           
         
         
         
         
         
         
     
 1989年に出版された翻訳絵本の中で、特に印象に残っている『あかいじゅうたん』(レックス・パーキン文・絵/みむらみちこ訳/ジー・シー・プレス刊)を紹介したいと思います。
 前付け(海外の版権表示がしてある部分)を見ると、この本はアメリカのマクミランという会社から1948年(昭和でいえば、23年)に出版されたようです。昭和23年といえば、戦後まもなく、日本はまだ混乱の時代であったともいえるでしょう。昭和22年、教育基本法・学校教育法制定、4月より6・3・3・4制が発足し、義務教育が9年になりました。そして23年は教育委員会ができた年です。
 日本が民主化の歩みを続けている最中、海の向こうのアメリカではこんな楽しい絵本がつぎつぎと生まれていたのです。
 さて本題。
 おかの上にあるベルビュー・ホテルにサルタナ公がお泊りになることになりました。サルタナ公をお迎えするためには、赤いじゅうたんをホテルの入り口にしかなくてはなりません。ホテルのドアマンが、くつの先でちょっとだけじゅうたんを押したとたん、じゅうたんは、するする、するする転がって……、町のなかを通りすぎ、野を越え山越え、とうとうフェリー乗り場まで転がっていきました。ちょうどその時、サルタナ公がフェリーに乗って到着します。桟橋に着いたサルタナ公の喜びっていったら……!
 絵本の中で一番おもしろいのは赤いじゅうたんがするする、するする転がっていく様子。読者はこのじゅうたん、いったいどこまで転がっていくんだろう、とわくわくしながらページをめくるというわけです。読者はサルタナ公がフェリーで到着するとは夢にも思いませんから、最後の方で、サルタナ公が登場したときには、なんて賢いじゅうたんかしら!と、おもわず感嘆のため息をもらしてしまうほど。
 『あかいじゅうたん』は、絵本の醍醐味である、「めくる楽しみ」をとってもうまく演出している本だと思います。読者はじゅうたんの行方が知りたくて、ドキドキしながらページをめくります。最後はいったいどうなっちゃうのだろうと。じゅうたんはこちらの心配などおかまいなし。どんどんどんどん転がってゆき、最後にサルタナ公の前に到着するという訳です。
 また、この通信の9号で、カラーと一色とを交互に使っている絵本について述べましたが、この『あかいじゅうたん』もカラーページと二色(白黒の絵の中に、じゅうたんだけが赤い色で印刷されています)のページが交互にでてきます。赤いじゅうたんは白黒のページでひときわ鮮やかに登場し、印象を強めています。
 消費税込みで1,545円ですが何度開いても、いくつになっても楽しめる本ですから、ぜひあなたの本だなに一冊どうぞ。
福武書店「子どもの本通信」第13号  1990.6.20
テキストファイル化富田真珠子