子どもの本

東京新聞

           
         
         
         
         
         
         
    
 子どもたちにどんな本を読ませたらいいかという質問に対して、あまり「文学」を押しつけないようにした方がいい、ということは言えるように思う。文学(この場合はフィクションをイメージしているが)というのは、作者と読者が虚構という、かなり危なっかしい約束事の上に成り立っているジャンルで、そういうことに興味を感じることのできない子どもに向かって強制するのは酷だと思うのだ。ならば、本というメディアに向かわせる、もっと普遍的なモチーフはということになれば、知らないことを知ることができる、つまり読者の知的な欲求に訴えるというあり方ではないだろうか。
 ところが子どもの本のノンフィクションというのは、何かを教えようとするモチーフが強すぎるせいか、概して子どもの知的好奇心を引き出すという姿勢や魅力に欠けている。今回紹介する二冊は、子ども読者が、本を出発点、もしくは手掛かりにして、自分なりの「不思議への探求」を進めていけるような、そんな広がりを持った本だと感じた。

『おばけは本当にいるの?』
岡島康治・著、しもゆきこ・絵
(PHP研究所、一二〇〇円)

 「ふしぎ探検隊 研究レポート」という副題のように、語り手である隊長(売れない作家と紹介されている)に、大学生のまり隊員、小学六年生のももや隊員の三人による実地研究リポートといった体裁になっている。
 初めに「妖怪博士」といわれた井上円了のことが紹介され、おばけの真相に迫る基本的な立場が示される。そして、霊感の強い女性へのインタビュー、カッパの正体を追っての九州ルポ、さらには死後の世界についての話し合いなど、さまざまなレベルの超常現象についての検証が、三人の語らいの中で提示されていく。そのため、読者もこの語らいに参加しながら、自分なりの考えや想像をふくらませていけるような仕掛けになっている。人間の心の闇(やみ)の部分への言及がもう少しほしいと感じたが、子どもたちにとって興味深いテーマをこのような形にまとめあげた点は評価したい。

『てんてんむし』
あべ弘士・作
(童心社、一四〇〇円)

 本を開くと、両面いっぱいの緑の草の中にさまざまな色や模様の虫たちが描かれ、「むしはからだにいろんなもようをもっている。それは、むしのことば」という文。そして、次の見開きからは、「模様別」に、虫たちの姿が図鑑風に並べられている。
 最初は体に大きな点の模様の虫たち、次に小さなたくさんの点の模様の虫たち。「てんてん」の虫たちの後は、今度は縞(しま)模様の虫たち。最初は縦縞、次に横縞。この辺がまだ半分というところで、まだまだ虫たちの「ことば」の多様さは尽きない。
 「図鑑風」とは書いたけれど、いかにもフリーハンドといったタッチの絵の雰囲気や、なにより虫たちの体の模様を読み取る作者の目のあたたかさが画面にあふれ、楽しさと不思議さとが見事に合体した世界が作り上げられている。こうした絵本を見ると、もはやフィクション、ノンフィクションといった分類は不要のものに思えてくる。
(ふじた・のぼる=児童文学評論家)
(東京新聞1999.08.24)
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