子どもの本を読む

岐阜新聞 1990.04.18

           
         
         
         
         
         
         
    
 本は読むもの、見るものとばかり思っていると、最近は音が出る本、においがする本、ふろ場で楽しむ本など、あの手この手の仕掛けで子どもたちをひきつけようとしている。今回はそうした”遊べる”本を取り上げてみたい。ただし、ここで紹介する本は、音やにおいが出たりするのに比べれば仕掛けは至って簡単。いわば古典的である。しかしそれだけに文字通り手作り感覚の楽しさにあふれている。
 
 「作ってたのしむグレイラビットの家」は、アリソン・アトリー作、マーガレット・テンペスト絵のおなじみの動物絵本のキャラクター<リトル・グレイラビット>の家を、紙で作ろうという絵本? である。家の作り方が書いてあるのではなく(いや、むろんそれも書いてあるのだが)、本の1ページ1ページが家の”部品”になっていて、それを切り抜いて家に仕上げるのだ。
 雑誌の付録などによくあるケースだが、本にはさみを入れるという発想には少し驚いた。最初に3ページが家の作り方の説明、次の10ページ分が家の各部分、その次が家具の部品、家具の作り方という具合に、部品と作り方という具合に合に、部品と作り方の説明がすっきり別々になっているところがかえって分かりいい。こういうことの苦手な子どもでも、作れそうな気がしてくる。
 「らくがき絵本」(五味太郎)もまた、参加する楽しさに満ちている。こちらはタイトルの通り、本そのものに色を塗ったり、絵を描いたりするための本で、塗り絵帳のうんと厚くて、うんと楽しくて、うんと創造的なものといえばイメージしてもらえるだろうか。とにかく分厚く、中身は再生紙でできているから、これ一冊を終えるには随分描きでがある。
 中の印刷はすべてグレーか黒で、例えば人の顔や手足のところに「ふくをかきましょう」、大きな皿の絵には「ごちそうをかきましょう」というふうに、「絵の枠組みが設定してあるものの、オオカミと子豚たちの絵があり「わっ、おおかみがきた―こぶたがたべられないようにしておくれ」というふうに、絵を描くことで状況を作り出すもの、絵の人物の吹き出しに言葉を入れ自分でストーリーを作り出すなど、実にさまざまに楽しめる。
 以上二冊は家庭ではもちろん、児童館や子ども会のような場で、一人あるいは一グループに一冊持たせてやったら喜ぶだろう。(ただし、値段の高いのが難点だが) 以下は、切ったり描いたりするのではなく、見て遊ぶ絵本。「ウォーリーのふしぎなたび」は「ウォーリーをさがせ」に始まる第三作。画面のたくさんの人の中から、一人の人物を捜し出すという、この絵本のパターンは他にもあるが、よくも描いたというほどの絵の緻密さと、全体のストーリー性で飽きさせることがない。
 「きんぞくたんけんぴかぴかでピカッ」は、乾電池をつないだ豆電球で、金属・非金属を識別していくという、分類としては科学絵本だが、絵の楽しさや、調べる対象物の展開のしかたが子どもらしい発想に富んでいて、絵本そのものとしても楽しめる。
 「寅さん映画ができるまで」は、映画制作の始めから上映に至るまでのプロセスを、たくさんの絵や図を織り交ぜて見せてくれる。映像の世界に親しい今の子たちには興味深い一冊だろう。(藤田のぼる=児童文学評論家)
〈本のリスト〉
「作ってたのしむグレイラビットの家」(フェイス・ジェイクスデザインと絵、箕浦万里子訳、偕成社)△「らくがき絵本」(五味太郎著、ブロンズ新社)△「ウォーリーのふしぎなたび」(マーティン・ハンドフォード作・絵、唐沢則幸訳、フレーベル館)「きんぞくたんけんぴかぴかでピカッ」(玉田泰太郎・ふくだいわお作、童心社)「寅さん映画ができるまで」(山田洋次・森田拳次作・絵、ポプラ社)

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