子どもの本を読む

熊本日日新聞 1987.8.5

           
         
         
         
         
         
         
    
    

 この欄は、子どもの本の、その時々の問題について考える時評的な意識で書いていますが、今回は夏休みということもあり、紹介という方に比重をかけます。またこの機会に、小学中級向けの本をまとめて取り上げたいと思います。時評となると、上級以上、でなければ絵本・幼年に偏りがちなのですが、子どもの側の必要性から言えば、この時期(ニ、三、四年生あたり)こそ良い本に出合わせたい。ところがこのグレードにいいものが少なく、少し前に出たものを含めての紹介になります。
 最初は昨年出た本で「学校ウサギをつかまえろ」。主な登場人物、ぼく・達ちゃん・信次、山田、そして美佐子、のんこの六人。みんな四年三組ですが、最初の三人だけがまあ一緒にいることが多いという程度の関係。山田を含む四人が下校の途中、ウサギを見かけます。学校に引き返してみると、やはり飼育当番の美佐子がウサギを探し中。通りがかりののんこを入れた六人は、工事現場のプレハブの下に潜り込んだウサギを見つけ、長い時間をかけてついに捕まえます。
 この作品の面白さは、まずはいかにしてウサギ捕獲が実現したか、失敗を重ねた上での成功、そのプロセスにあります。しかしもう一つ見逃せないのは、そのプロセスの中で子ども一人ひとりが明かされていく面白さ。例えばガリ勉の山田は、塾の時間が気になり途中で帰ってしまいますが、しばらくして懐中電灯や捕虫網を持って戻ってきます。その時のみんなの反応。
 また転校して来てからほとんど口もきかず、暗い表情だった美佐子が初めて見せた懸命さ。そして“ぼく”は、口ではあれこれ注文するものの、手も体も一番汚れてない自分にふと気付きます。児童文学の面白さということへの、確かな解答がここにはあります。
 「真夏のランナー」は一時代前の子どもの世界。村の夏祭りの日、盆綱作りに精を出す少年たち。しかしまだ三年生のぼくは参加できず、見守るだけ。だれか、特にみんなのあこがれの的、六年生の次郎さんに声を掛けてほしい。盆綱作りが終わった時、初めて次郎さんがぼくに目を向け、アイスキャンデーを買ってこいと言いつけます。勇んで駆け出すぼく。
 しかし、一人で食べようとする自分への周囲の視線に気付いた次郎さんは、もう溶けかかっていると捨ててしまいます。あんなに必死に走って来たのに…。その時ぼくの中の何かがはじけます。絶対だったものが崩れる瞬間を見事にとらえています。いずれにせよ、本当に面白い作品には“発見”があり、その発見を支える作者の熱いモチーフがあります。
テキストファイル化大澤ふみ