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 最近のヤングアダルト向けの作品には、なかなか読みみごたえのあるものが目立つ。
 『丘の上のセーラ-ヒルクレストの娘たち1』(ルース・エルウィン・ハリス作 脇明子訳、岩波書店、ニ二○○円)は、副題が示すとおり、イギリスのサマーセット地方の小さな村にあるヒルクレスト屋敷に住む四人姉妹を主人公にした長編少女小説の第一部である。このシリーズはいわばイギリス版『若草物語』で、現在第四部が執筆されつつあるが、それで終わるのか、第五部へと続くのかは未定だそうだ。第一部である本書は、姉妹の両親が相次いで亡くなり、愛するヒルクレスト荘も売りに出されそうになっている場面から始まる。そして姉妹がいかにカを合わせて家を守り、いかにそれぞれ成長していこかが語られるわけだが、第一部では末娘セーラを主人公に、彼女が七才から十七才までの一九一0年から二○年までの出来事をセ- ラの視点から語る。妹たちの面倒を見ながら美術学校に通い、結婚より画家としての道を選ぼうとする長姉。その長姉の恋人であり、幼い時から兄のように慕ってきた男性に次第に魅かれていくセーラ。あるいは初めての学校生活に失敗し失望したにもかかわらず、勇気と希望をもって大学に進` 学するセーラ。すぐれた構成力と描写カは言うまでもなく、少女たちの新しい生き方を探ろうとする現代的な視点が新鮮だ。他の三人の少女をそれぞれ主人公にしでいる続編の邦訳が待たれる。
 レスカ15歳、冬の終りに』(マウゴジャ夕・ムシェロヴィチ作、田村和子訳、岩波書店一八00円) は、一九八三年戒厳令下のポーランドの中心都市ポズナニを舞台に、そこに生きる人々が織りなす様々な人聞模様を描いた作品。作品の縦糸に三角関係に傷つく十五才の少女クレス夕を中心とする数人の男女の青春模様をとり、横糸に食料も配給制でままならない時代に、無邪気に昼食を食べに見知らぬ家を次々とたずねるハ才の少女と周囲の人々との交流をとる。激動する社会で理想に燃え、挫折感を味わいながらも、希望を失うまいとする若者を描きながら、男女の青春の悩み、母と子や教師と生徒間の愛情ある人間関係の大切さなど普遍的なテーマを考えさせる話題作。
 るさとは、夏』 (芝田勝茂作、福音館書店、一五〇〇円)は、わが国の各地方に伝わる色々な伝鋭に新たに目を向けさせてくれる作品。夏休みを父の田舎で過ごすことになっり北陸の小さな村を訪れたみち夫が、バンモチと呼ばれる伝統行事の夜、その家の娘ヒスイと話していると、突然二人の間にどこからか白羽の矢が飛んでくる。白羽の矢を受けた家の娘は介添をつけて巫女として神社ごもりをしなくてはならない。ヒスイは介添にみち夫を指名した。しかし彼らは神社ごもりをする前に、誰が何のために矢を射たのかを解き明かさなくてはならない。そんな二人の前に何とも風変わりな神々が次々と現われる。北陸地方の神々の伝鋭に明るくない筆者には、残念ながら、どこまでが伝鋭に基づいたものでどこからが作者の独創なのか断言できない。しかし土着の迷信や言い伝えをうまく利用し、さらに作者のユーモラスな独創をくわえ、しかもそれらを見事に融合させた力作であることは確かであろう。また犯人捜しという推理小説風な興味も加わって楽しく読める。
 わが国に伝わる神々や妖怪たちの話といえば、科学者が山奥のアパートで妖怪たちと一緒に暮らしていたら、百年も水の世界から追放されていた水の精が権現様になったという『クヌギ林のザワザワ荘』(富安陽子作、あかね書房、一一○○円)や、赤子の時からミルクの代りに酒を飲んでいた酒呑童子や昔ながらの妖怪の代表格である河童やてんぐを扱った民話風の『七人のおかしな妖怪たち』 (たかしよいち作、理論社、九五○円)は、前三作よりずっと年齢の低い子供も楽しめるとても楽しいファンタジーである。 (南部英子)
読書人1990/08/13