ゾッとするような一文

赤木かん子

           
         
         
         
         
         
         
    
    
    
 これは、さる所で行われた住民と図書館のフォーラムの記録だが、その一部にゾッとするような一文があったので、みなさんにもお伝えしたいと思います。
 ここ、ここんとこね。

「いろんな人たちを巻き込んで大きな力になるように頑張って下さい。個人的な意見ですが、図書館にいい本を置くのと同時に悪い本やビデオを追放できるような運動が出来ないかなと思います。17歳の子の問題が起きていますが、おそらく、子供たちの周りにひどい本やビデオが溢れていると思うんですね。テレビのシーンなんかもだんだん過激になってきていますし、図書館を愛する人達で世の中を変えていけたらいいですね。そのためには、いい図書館を作らなければいけませんね。」

 うっっっっわ〜〜〜!!でしょ?
 この人が、具体的にどういう本やビデオをイメージして、こういうことを言っているのかは、本人に直接インタビューしない限りはわからないが、とりあえず図書館で買えるようなもの……イコール一般に市販されている商品の中には、そんなものはありはしない。
 先日も、東南アジアだかの子どもを使って作った児童ポルノを、1本70万円で売っていて捕まった連中がいたが、そういう本当に悪どいものは、図書館が買えるような所には転がっていないのだ。
 毒のあるものは、闇ルートでしか売られていないのだから、図書館なんかが買えるわけがない。というより、一般で売られるようになった商品というのは、もうすでに牙を抜かれ、毒のないものになってしまったのだと言い換えてもいいだろう。
 それに第一、本やマンガやビデオに、1人の子どもを破壊する力なんぞはありはしない。生まれた時は、普通の赤ちゃんだったろう子を、たった17年間であそこまで破壊するには、もの凄いプレッシャーが働いただろうと思う。どうされたら、自分が気が狂うところまで追い詰められるかを考えたら、そのエネルギーの大きさは、計り知れない。
 人間の子をそこまで追い詰めるのは、1冊の本、1冊のマンガ、1本のビデオ、1本のゲームでは不可能だ。それこそ、毎日毎日呼吸する度に少しずつ押し潰され、きしみ、泣き叫んでも誰も聞いてくれない、長い長い17年間がなければ不可能でしょう。
 考えてもみてください。
 本やマンガやゲームは、子どもたちを侮辱しない。むしろ歓迎し、励ましてくれるのである。ゲームの中では、コントローラーを扱っているその子が主役であり、時には身をていして守ってくれる仲間がいるのである。守ってもらえるのである。人間の子を育て、守るのも人間だが、同時にそこまで人間を破壊することができるのも人間だけなのだ。
 彼女のセリフは、こう言い換えた方がいいだろう。
 ゛おそらく、子どもたちのまわりに、ひどい大人があふれていると思うんですよね。゛

 その通り!
 本やビデオは、論理のすり替えだ。本やマンガやビデオやゲームを攻撃している限り、彼女はぬくぬくと安全な岸辺に立っていることができ、なおかつ、自分は優れている、正しい、といった優越感を持つことができるが、こと人間となれば!
 その児童ポルノを作った人間たちを捕まえ、買った人間たちを追及しようと思えば、自分も痛い目に合うのは分かり切っている。今、ひどい目に合っている子どもたちを助けようと思えば、全身、文字通り傷だらけになるだろう。人、1人でも援助するのは大変なことなのだから──。
 今度、したり顔でぬくぬくと、こういうセリフを吐くやつがいたら、にっこり笑って言ってやってほしい……。
 テレビのシーンがどんなに過激でも、実際に殴るお父さんより恐いことは、決して有り得ないんですよ……。どんな本やビデオだって、「アンタなんか生むんじゃなかった!」と怒鳴るお母さんより効果的に、子どもを壊すことはできないんですよ……と──。
テキストファイル化佐々木暁子