私のアタマは今、目にも鮮やかなオレンジ色である……。


           
         
         
         
         
         
         
         
    
 なに、ただ単に“白髪染め”なだけで、私は18才くらいから白髪があったので放っておいて猫背で歩けばゆうに65才くらいには見えるのだ。
 というわけで染めたのだが、美容師が黒は体に悪い、といってイヤがって染めてくれず、いたしかたなくカラーになった。
 緑、青、茶、といろいろ試したあげく、去年の夏からオレンジになったのだが、オレンジは私に似合う……ということがわかった。
 私は黒と青ばかり着ていて、自分がまさかオレンジ色が似合うなどと思ったこともなかったのだが、着てみるとなるほど似合う。
 人間、いくつになっても発見はあるものだ。
 ではオレンジ色が好きか、といわれるとう〜ん、なのだけどなんだって好きだからといって似合うわけではないでしょう。
 似合って好きならいうことないけど、どっちかといわれたら、私は似合う方をとる。
 というわけでオレンジ色になったのだが、世はなべてガングロから色白へ……カラーから落ち着いた茶髪へ……と流れているのでいやあ目立つこと、目立つこと。
 今そんなアタマをしているのはイカれたタレントかミュージシャンくらいなもんだもんね。
 というわけでその目立つアタマであるいていて出会ったことをひとつふたつ。
 といっても自分のアタマは自分で見えないので私はふだんは忘れている。
 会った人がびっくりした顔をするので、あ、そうそう、と思い出すくらいである。
 まず、やたらと六十代くらいのオバチャンたちに声をかけられるようになった。それもスーパーとかで……。
 レジに並んでいうといきなり、アンタ、この前西友にいたね〜、とか懐かしそうにいわれたりしてびっくりするのだが、そういういう人たちはみな、きれいな色だねェ〜、といってうらやましがるのだ。
 やってみれば?というと、やってみたいけどね〜〜、亭主が、ムスコが、つまり世間さまがね〜〜、と残念そうにいうのだ。
 小さい子にもやたらモテるようになった。
 瞬間びっくりした顔になるのだが、次の瞬間、嬉しそうな顔をして手をふってくれる。
 何度も遭遇するうちに、なにかポケモンの一種のように思っているらしい、というのがわかってきた。
 チビでちょっとデブの赤毛のポケモンがいるのか知らん。
 便利になったのが待ち合わせである。
 特に新幹線の名古屋とか大阪とかで、むかえにきてくれる講演先の人と会うのはちょっとドキドキだったのだけど、このアタマにしてからは一発でみつけてもらえる。
 むこうも“すぐにわかりました!”と嬉しがってくれる。
 主催者なんて、ホント、顔をみるまではドキドキもんだからね。
 失敗したのがお芝居である。
 小さい劇場に遅刻して入っていったらたまたま私のアタマがライトの通り道になってしまって、舞台の役者と客席中の人の視線がこっちにむいてしまい、芝居がとぎれてしまった……。それ以来、そいういうとこに入るときには帽子をかぶっていくことにしている。
今は小学校の図書館をつくりにいっているのだが、子供たちには一発で覚えてもらえてこれは便利だ。
もっともこの前五年生の女の子に“勇気あるねェ“といわれた。
“大人になるとさ、勇気はいらないんだよ。カネがいるだけで”といったら“子供はふたつともないよ”といわれました、ハイ。
ようするに、よくもわるくもめだつ。
 そうして嬉しがってくれる人とイヤがってくれる人がくっきりはっきり別れるのだ。
 たかが髪の色なのにね。
 いくらでも染め変えられるのにね。
 中身はいつだって同じなのにね。
 でも、見かけって大事よ。

 というわけで当分これで勝負しようと思う。人が驚くのは楽しい。
 あ、でもこの次はレモンイエローになってるかもしれない。
 どこかで会ったらよろしくね。
テキストファイル化みやじま ゆきえ